「私たちのOSには特別のタッチスクリーンが必要だけど、それはお姉さんたちが開発したわ。たいていのコントロール関係はキーボードやポインティングディバイスなしで操作できる。だってタッチスクリーンがポインティングディバイスになっているから……」
「……タッチスクリーンがあるので、画面の隅に小さなスキャナーも付けたの。そのおかげでログインの手間がいらなくなったわ。画面の隅を指で触ると、システムが認識して、自動的にデスクトップに連れて行ってくれる。指紋が認識されなかったら、ログインできない」
ジェイクが訊いた。「でも、障碍者の人とか指を失った人はどうする?」
エマがちょっと憐れむような顔でジェイクを見た。「お願い、ジェイク。今、何をしてるところかみんな分かってると思うけど? 今は一般的な情報を伝えてるところなの。誰でも分かる例外事項についてはすでにしっかりカバーしてるわ。『もし……だったらどうする?』という話しに入っていいなら、パパのような口調で話し始めるけど、それでもいいの?」
アンドリューは憮然とした顔をした。「僕は会話に参加すらしてないのに、どうしてバカにされるようなこと言われるんだ?」
エマが父親に向かって言った。「気にしないで、パパ。パパは、私たちにとっては、好ましいホモサピエンスだから」
それを聞いて彼は気を取り直したようだった。
「とにかく、ユーザーインタフェースには難度に関して複数のレベルを組み込んだの。だから、OSは子供にも、10代の若者にも、普通の大人にも、コンピュータおたくにも快適に使えるようになってる。すべてのオプションがユーザーの能力レベルに感応するようになってるから」
アンドリューが口を挟んだ。「みんな全体像は理解したと思う。次は、マイクロソフトの独占に風穴を開けることに興味がありそうな主要コンピュータメーカーとの交渉をしなければならない。僕はIBMを考えている。IBMはここんところUNIXをプッシュしているからね。まあ、IBMでなくても、そういう意識の会社。もちろん、この試みの先鋒を務めるには法的な面にもしっかり神経を払う必要がある……」
「……そのうえでだけど、ジェイク。僕たちは目の前の小さなジャガイモを食べるかどうかを話してるんじゃないんだ。マイクロソフトを相手にいくらかでも先を行けるようになるためには、おカネが重要な意味を持ってくるかもしれない。何十億ドルというレベルの話しで。このOSがあればウィンドウズはぶっ飛ばせるということは、君に保証できるよ」
「そのOSだけど、ちょっと見せてもらえるかな?」とジェイクが訊いた。
ようやく、ふたりのコンピュータおたくの子供たちのうち、ひとりが口を開いた。「僕たち、OSのベータ版を装着したパソコンをあげるよ」
もうひとりが後をつないだ。「仕事に使ってもいいよ」
最初の子が言った。「勝手にネットにつながって認識されるから大丈夫」
2番目の子が言った。「それ、サーバーにすることもできるよ。もしそうしたかったらだけど」
「サーバーにするソフトのためにおカネを使わなくてもね」と最初の子。
エマが声をあげた。「これは、コンピュータを家庭や職場にある他の家電のようにするための長い道を進むための試みなの。ワイヤを差し込んだら、あとはコンピュータが残りのことをやってくれるようにしたい。多分、自分は宇宙の秘密を知ってると思いたがってるわずかなコンピュータおたくたちは怒るだろうけど、平均的なホモサピエンスは、そういうコンピュータを大歓迎するはず」
アンドリューが引き継いだ。「残るステップは、ネットとの接続ポートをひとつに限定したパソコンを作るよう、製造者を説得しなくてはいけないこと。同時に、周辺の製造者には、ポートは同じタイプになるハードウェアを使うよう納得してもらわなければならない。多分USBポートになると思うけど。そうすることによって、何をどこに差し込むかに迷いがなくなることになると思う。どんな装置もどこに差し込んでも構わないと、そういう状況を作る。過去の製品に配慮して整合性を保証するなんて、くそくらえって」
私は、何が話し合われているのか、部分的にしかはっきりしなかったが、大きな話が進んでいることは分かったし、それが本当だとも理解した。