あたしに身体を押し付けていた男の人はどんな人なのって思って、よく見たら、割とハンサムな人で、Tシャツとジーンズというシンプルな服装をしてた。胸の前で両腕を組んでいたけど、すごい筋肉の腕で、ちょっと身体を動かしても、筋肉がピクピク動いていた。とても強い印象を与える男性で、身長は軽く180センチを超えると思うし、この人より大きな胸板をしてる男性は、ここには誰もいない。
再びステージに目を向けたら、ベティが満面の笑顔であたしに向かって両手を振っていた。お客さんたちが一斉に振り返って、あたしに目を向けた。知らぬ間に、あたし、この小さなショップにぎゅうぎゅう詰めになっているイヤラシくて、エッチな気分になってる男たちの注目の的になってしまってるじゃないの!
すぐに店の外に出たかったけど、あたしの後ろにはさっきのふたり組の大きな男性が立ちふさがっていて、入り口には戻れなかった。身を縮めて隠れたかったけど、ベティがあたしに手を振ってるのに気づいたからか、男たちは、ぞろぞろと動いて場所を開け、ステージへと通じる細い通り道を作ってしまった。スポットライトがあたしを照らす。男たち全員の視線があたしに向けられた。溜息や、口笛が聞こえる。みんな、あたしのことを褒める声。まあ、あたし自身を褒めているというより、この服装のせいでものすごく肌を露出してしまっていることを褒めたたえる声なのは確かだけど。
もう逃げられない。仕方なく、一度、深呼吸をして、作り笑いをし、ベティが立っているステージへ上がった。ベティの後ろに立ってるアダムにも目を向けた。彼は嬉しそうに微笑みながら、あたしのことを見ていた。
「ケイト! 来てくれて本当にうれしいわ」 ベティは興奮した様子でそう言って、あたしをハグした。
「ベティ、あなた、お客さんたちがいるって言ってなかったわよ……しかも、こんなにたくさんいるなんて!」
ベティはうふふと笑って、あの太いバイブを掲げ、あたしにウインクした。
「確かに宣伝はしたけど、本当に短期間だったのよ。だから、あたしもあなたと同じくらい驚いてるの。ケイト、お願い、ちょっとだけ、ここに立って待ってて。この仕事を片付けちゃうから」 ベティはそう囁いて、観客たちの方に向き直った。
「はい、皆さん! 中断しちゃってごめんなさい。さっきお話ししようとしてたことだけど、これを使うときは、本当に少量の潤滑剤しかいらないの。あとの仕事は、ここにいる殿方がおっしゃったように、このバイブが全部してくれるのよ。皆さんの奥さんでも、彼女でも、あるいは彼氏でも、このバイブを使ってあげたら、みんな感謝して皆さんをいっそう愛しく思うようになるはず」
ベティは「彼氏でも」と自分で言いながら、自分で笑っていた。
あたしもちょっと驚いていた。だって、男性があんな太いバイブをお尻に入れるところなんて、想像すらできなかったから。お客さんたちをざっと見てみると、確かにゲイの男性もいるかもしれないと思った。お客さんの大半は30代から40代の男性で、女性も何人かいたけど、その人たちは連れの男性にくっつくようにしていた。ともかく、誰もがあたしたちを見ていたし、もっと言えば、男性の大半はあたしに目を向けていたと思う。
「で、うちが紹介する、次の新製品は、なんと、トニー・ハング(
参考l)のおちんちんの鋳型を使って作ったディルド。本物の複製なのよ……しかも、今日の今の時間から販売開始! ケイト、そこにあるディルド、取ってくれる?」 ベティは、後ろの低いテーブルを指さした。
あたしは何が何だか分からず、ぼーっとしていたけど、ベティはニコニコしながらディルドを渡すように身振りで指示している。いいわよ、分かったわ。合わせてあげるわ。さしずめ、あたしはベティにとってのバンナ・ホワイト(
参考l)ね。
振り向いて、そこにあった低い台を見た。実際はテーブルじゃなかった。なんか、スーツケースを、テーブルクロスみたいなので覆ったようなものが、床に置かれてただけ。ともあれ、そこへ行ったけど、その途端、会場から口笛やため息が聞こえた。あたしの後姿を見ての反応? 思わず体が強張ってしまった。ここにいるたくさんの男たちがあたしのことを見てる!