Two Birds 「一石二鳥」
「こんなのとんでもない考えだよ。君もそう思っているんだろ?」
「何? いや思ってないよ。なんでそんなこと言うんだ?」
「こんな考え、狂ってるってことの他に?」
「ドラマのヒロインみたいなこと言うのやめろよ。この手のことはどこにでもあることだよ」
「映画を含めるなら話は別だけど、こんなことそうどこでもあることじゃないよ。それに、映画を含めたって、君が思ってるほど、普通のことじゃないよ。『ミセス・ダウト』(
参考)なんてずいぶん前の映画だし」
「そうか? 『トッツィ』は? 『ビッグママ・ハウス』は? 『プリティ・ダンク』も。いくらでも挙げることができるよ」
「まず第一に、そういう映画は1本を除いて、全部ひどい映画だ。第二に、それと今回のことは全く別の話だということ」
「その通り。だって、実際、お前が自分から進んでやったことだしな。それにしても、お前、本当に最高だよ」
「ここで怒るべきなのか、感謝すべきなのか分からないが、そんなのどうでもいいや。その点に突っ込むつもりはないよ。僕が言いたいのは、そういう映画では、主人公が女装して、ちょっと人づきあいが下手な大学1年生を誘惑しようとしたりしていないという点。その点だけでも、そういう映画とはすごく違うことになるということ」
「俺の弟は人づきあいが下手と言ってるわけ? あいつはただの恥ずかしがり屋なだけだよ! それに、弟には、ちょっとでいいから気がある人がいるかもって示してやるだけでいいって点ではお前も俺も同じ意見だっただろ? あいつはマジで可愛いやつだし……」
「それなら、君のガールフレンドたちに頼めばいいことだって、言ったよね? どんな娘だって僕なんかより適任だと思うのに」
「それについては何千回も言ったよね! 弟は……あいつは……男の娘が好きなんだよ。分かってるだろ? そっちがすごく好きらしいんだ。つか、弟のネットの履歴は全部そればっかり。それに、そういう役割を演じる準備をしたがってるのは、他ならぬお前だろ? カメラの前でトランスジェンダーの女を演じる練習をするのに、現実にそういうのを演じるより良い方法ってあるか? お前はメソッドアクター(
参考)だと思ってたけど?」
「その通り。僕はメソッド役者。つか、今回のことについて僕が用意した筋書きのことを忘れたんじゃないのか? あの食事制限やらエクササイズやら、何もかも……」
「お前も、そういう努力が無駄になってしまうのは嫌だろ? だからさあ、やれよ。これが自分のためになるって分かってるだろ? それに、これをしてくれたら俺は本当に助かるんだ。一石二鳥だよ」
「どうでもいいけど。でも、もし彼が……もし、事態が変な感じに変わったら、僕は抜けるからね。これに関しては、質問はなし、で」
「ああ。分かった。もちろん。必ずそうするから」