To the Victor 「すべては勝者に」
「そんな目で見ないでよ。これは自分で招いたことでしょ? 分かってるはずよ」
「全然、罪悪感を感じていないのか? 僕を無理やりこんなふうにしたくせに……」
「無理やりですって? コーディ、それって強い言葉よ? あたしとしては、あなたに選択肢を提供したと考えたいところね。あなたに選択の余地を与え、そのうえで、あなたは自分にぴったりの選択肢を選んだと」
「選択肢だって? お前が僕に与えたことを選択肢って呼ぶのか? 僕には選択の余地などなかったよ。お前はそれを知っててやったんだ! こうでもしなければ、僕はすべてを失っていた!」
「ちょっと面白い思考実験だと思うけど、こういうのを考えてみて? あなたは、自分の本質部分をあきらめるけど、富と贅沢な生活は保持し続ける。そういうのと、あなたは自分の本来の在り方にしがみついたまま、これまでの血のにじむような労働の果実は手放すことになる、という選択肢。正直、あなたは後者を選ぶと思っていたわ。でも、実際はあなたは前者を選んだ。それを知って、あたしすごく満足したの。だって、かつてのあなたがどういう人間だったかを思うと、その選択って、なお一層、美味しい結果だったと思わない?」
「恨んでやる」
「ずっと前からこうなるのは避けられなかったのよ、コーディ。あなたがあたしに自分のオンナになれと脅迫したときからずっと、あたしとあなたは対立することになってきたの。そして、その戦いで勝利を収めたのがあたしであり、戦利品は勝者のものになるというだけの話。その結果、この素敵な写真撮影になったわけだし、後々、今のあなたについてベールをはがすことになるということ。ほんと、どうなるかしらね? 卓越した独身男性の一人と思われていた人が、実は女性になっていましたって発表されたら、世間はどんなふうに思うかしら?」
「お笑いの的になるだろうさ」
「多分ね。あるいは、ひょっとすると世間からすごく応援してもらえることになるかもしれないわよ。元オリンピック選手のケイトリン・ジェンナー(
参考)みたいに。あんなキモイ人ですら世間に受け入れられるとすると、あなたが受け入れられるチャンスもかなり高いかも。でも、正直に告白すると、その予想、間違っているといいなと思ってるわ。あなたが世間に滅茶苦茶に誹謗中傷されるといいなと思ってるの。みんなにあざ笑われるといいなと。……だって、みんながあなたのこと可愛いとか綺麗とか言ったら、大した懲らしめにならないでしょ? そう思わない?」
「じ、地獄に落ちろ……」
「あら、やだ。まずはあなたからよ、地獄に落ちたのは。これが、あなたにとっての地獄だから。ちょっと可愛らしい形の地獄。これから何年も、何年も、この地獄の中でのたうち回るといいんじゃない?」