昼間、様々な時に突然怒りがこみ上げ、リチャードをひどく痛めつけてやろうかと思うことがあった。だが、それと同様の頻度で、夜になると、怒りが和らぎ、次第に甘美な苦悩に置き替り、その感情が、ベッドの中、僕を支配するようにもなっていたのである。浮気をしたクリスティナにとっては当然の報いとも言えたが、彼女は、僕の怒りやかんしゃくに苛立つようになっていた。昼間は僕の怒りに油を注ぐリチャードの話題が、夜になると逆に性的興奮を高めることにつながっていた。このことは、クリスティナにも明らかになっていたに違いない。
次第に、クリスティナは、僕のこの状態を利用するようになった。彼女は、情事のことについて、それまで話した以上のことは何も語らないと、話しを拒むようになったのである。さらに、自分の妻の浮気の話で興奮するなんて、まるで変態男だと僕のことを責めるようになった。それと同時に、ベッドに入ると、情事のことについて非常に巧妙に仄めかし、僕に、もっと話して欲しいと乞い願わせるように仕向けたのである。そうやって、一滴ずつたらすように僕に情報を漏らし、その効果を観察するようになった。
クリスティナは、僕が自分の感情に正直に対面しなければならないと考え、その段階になるよう、徐々にいろいろなことをするようになっていった。最終的には、彼女は僕をそういう段階へ誘導することができるだろうと思った。何だかんだ言っても、正直になれば、妻の非難は極めて正当だと思うし、僕自身、妻の浮気に対する奇妙にマゾヒスティックな感情で消耗しきっていたのも事実だったから。
クリスティナは、まるで本を読むように僕の心を読み取っていた。彼女は、少しずつではあるが、僕たち二人の間での支配権を握るようになっていった。ベッドの中、僕がリチャードのことについて質問するたび、妻は少しずつ新しい情報を語り、それに合わせて支配権を拡大していく。最初は、僕に、その話に興奮するということを認めさせることだけで満足していたクリスティナだったが、やがて、彼女は、より極端な方向へと進み始めたのである。
妻は、リチャードと行ったセックスについて、少しずつ、より詳しい、当人たちにしか分からない事柄を話すようになっていった。
例えば、彼女が「教えこまれた」と言う新しいフェラの仕方。クリスティナは、それについて話し、僕を相手に実演して見せてくれた。実際、このフェラチオは、普通に彼女がペニスを吸うというのとは異なり、むしろ口を提供し、荒々しく犯してもらうと言った方が近いものだった。彼女は、ベッドに仰向けに横たわり、ベッドの端から頭だけを逆さにさげた格好になる。そして、僕はベッド脇に立ち、逆さになった彼女の口にペニスを突き立てるといった格好だった。それから、後ろからつながって行うセックスについても。この体位について、クリスティナはよくこういう風に言った。
「この体位、好きだったわ! 彼の顔が見えないから、心が傷つかなくてすむの! エッチに没頭できるから!」