「まあ・・・とにかく、このときはセックスしてないだろう」 スティーブが切り返した。「俺は、君にセックスする機会を与えなかったからな。そうだろう?」 侮蔑がこもった声だった。
「もう俺や他のみんなをバカにするのをやめたらどうだ。君はこの男と公園に行って、どこかでブラジャーを外したんだよ・・・朝、家を出るときには確かにつけていたのを知っていたからな・・・さらに、この男のために下着を脱いで、こいつとセックスしようとしていた。そいつは、どう見ても明らかだろう。俺が、あの場に現れなかったら、やっていたはずだ」
スティーブはバーバラが泣くのをしばらく見ていた。彼女の母親は、瞬時、どうしてよいか分からなかったようだが、少し後、娘に腕を差し伸べ、すすり泣く娘の背中を優しく叩いた。
バーバラが囁いた。
「彼とは一度もセックスをしてないわ。・・・あの日、ひょっとしてしたかもしれない・・・私はすっかり混乱していて・・・本当はしたいと思っていなかったの・・・でも彼が大丈夫だと言っていたから・・・彼とはセックスしたいなんて思っていなかったの・・・」
バーバラは2、3回深呼吸をした。肩を軽くすくめ、その動きで、自分を抱く母親の腕を振りほどいた。
バーバラの抗議を切り捨てるように、スティーブは、「ふんっ」と鼻を鳴らした。誰にも聞こえるような大きな音で、軽蔑しきった内面をあらわにしたものだった。
「本当よ!!」
「あいつとは何回やったんだ?」 スティーブの荒々しい声がとどろいた。
バーバラは頭を激しく左右に振った。
「だから、言ったでしょ・・・一度もないって」
「また、デタラメを。・・・あの男は一物を外に出していて、お前も、ほとんど裸同然だったわけなんだが。そんな状況が、『初めてのデート』で起こるわけがないだろう。何回、あいつとセックスしたのか、それを訊いているんだが」
再びスティーブは問いただし、バーバラは頭を振った。
「何回だ?」
スティーブは3回目の質問をした。バーバラは彼から視線をそむけたままだが、またも、頭を振った。
ロイドがぎこちなく間に入った。
「ああ・・・なんだ、スティーブ・・・その・・・ビデオを見れば、2人は、実際、全然セックスしていないわけだし・・・君自身もそれは認めているわけだろう?・・・ううん・・・それにあの写真も変だったのは確かだが、それでも、あのパーティでも2人がセックスなんかしていなかったわけだし・・・ちょっと聞いてくれ・・・みんな、落ち着いてはどうだろうか・・・一度、深呼吸して、解決する方法を考えよう、この・・・何と言うか・・・この問題を解決する方法だよ」
ロイドは、希望にすがるようにしてスティーブを見た。
「・・・なあ、スティーブ・・・どんな夫婦も、こういうことを何とか切り抜けていているもんなんだよ。君とバーバラもできるはずだ」
スティーブは義理の父を無表情な顔で見つめた。しばらく沈黙が続いた。ようやくスティーブは口を開いた。
「ロイド・・・あなたは、まるで、バーバラが街角のスーパーで風船ガムを万引きしたところを捕まえられたかのようにして片付けようとしている。彼女が、くすねた風船ガムを店に返して、ちゃんと謝れば、彼女も反省したことだし、すべては元通りで万事解決だと、そう考えている・・・でも違うんですよ。バーバラはもはや幼い子供ではないんです。それに、単に、ごめんなさいって謝ったからといって、この結婚を元通りにできるなどありえないんですよ」
スティーブは立ち上がって、テレビとリクライニング椅子の間をちょっと行ったりきたりした。
「考えてください・・・バーバラはずっと嘘をつきっぱなしでした。あの日のことについて、バーバラがどこに行ったか、行ったと僕に言った場所はまったく嘘でした。・・・何も間違ったことはしていないと言ったが、それも嘘。・・・まったく、あなたの目の前だと言うのに彼女は嘘をついたんです。あなたはバーバラの父親なんですよ。そのあなたの娘が、次々と真っ赤な嘘を話したんです。・・・はっきり言いますよ・・・僕は、僕たちの結婚自体、最初の最初から完全に嘘ばっかりだと思っているんです!」
スティーブは再び行ったり来たりを繰り返した。