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報復 第2章 (13:終) 

突然、スティーブが言った。

「君は、エレン・ポーターさんには、何か作り話しを用意したのか?」

突然の質問にバーバラは驚いた。

「い、いいえ・・・何を?・・・誰?・・・」 バーバラは困惑した声で答えたが、質問の途中で発言をやめてしまった。

「バーバラ。既婚の男と火遊びを始める前に、あれこれ調査をしておくべきだな。エレンは、誰に聞いても分かるが、ポーター夫人だ。あのバカ野郎の奥さんだ・・・」

スティーブは少し間を置いた。そして静かな口調で続けた。

「・・・2人には娘がいるが、その娘さんは自分の父親のことを、どう思うだろう?」

バーバラは体から力が抜け、再び、すすり泣きし始めた。スティーブは、バーバラが泣き止むのを待った。今のスティーブは彼女の涙に動かされることはなかった。あの歯科医院の待合室で新聞を読む前だったなら、彼女の涙にうろたえただろうが、今の彼は違った。

「今になってポーター氏の妻子のことが心配になったのかね?」

スティーブは質問はしたものの、答えを待たなかった。バーバラが泣くことで、スティーブの質問がいったん休止したが、それは次の質問に移るための適切な間となった。

「オーケー・・・それじゃ、あのバカ野郎は、既婚の女と行ったちょっとした火遊びについて、自分の妻に何と伝えたのかな?」 あざける調子がこもった声だった。

「わ、私は知らないわ・・・あなたが私たちに会ったあの日から、彼とは話してないから」

「ほお? あいつとは話していない?・・・会っていないのか? 電話で話してもいない・・・メモや手紙のやり取りもなし・・・メールもしてないと?」

バーバラは、そうよと言わんばかりに激しく頭を左右に振った。

スティーブは椅子に戻り、バインダーから紙を1枚取り出した。次に、玄関ドアの近くにある、3本足のテーブルへと急いで歩き、バーバラのハンドバックの中を覗き、素早く中から携帯電話を取り出した。

「黙っていろ!!」 スティーブの怒声が轟いた。それによりバーバラは反論できなくなってしまった。

「君は、俺に隠れて浮気をしようと決めた瞬間に、俺の家の中におけるすべてのものに関して、一切プライバシーを主張できなくなっているのだよ」

バーバラは立ち上がったものの、スティーブの目に浮かぶ表情に気おされ、再び椅子に腰を落とし、両手で頭を抱えた。再び泣き始める。

「それで?・・・どうかな・・・あ、オーケー」

スティーブは、私立探偵にもらったバインダーから取り出した紙を見た。そして、義理の父のところに進んだ。

「ここのところを見てくれますか? ロイド」

スティーブはロイドに携帯電話の画面を見せた。

「これはバーバラの送着信履歴です。最近行った電話が20件か30件でています。・・・正確な数字は忘れました。ともかく、上の方にある履歴が見えますね? 画面には4件しか出てませんが、スクロールすれば・・・ほら、山ほどあるのが見えますね。20から30くらい?」

「それで、最初の4件は、ラファエル・ポーターの携帯電話の番号です。それに、ここの2件は・・・これは彼の自宅の番号・・・次の3件は職場の番号です・・・どうです? 何が起きているか分かりますよね? この履歴は、一番上の2件を除いて、すべて昨日行われた通話なんですよ。この2件は今朝の通話だ。バーバラからかけた電話です。あなたたちがここに来る30分前に、バーバラはこの男に電話をしていたんですよ!・・・」

「・・・そして、たった30秒前に、彼女は、僕が2人が一緒になっているところをつかまえた日から、あの男とは話しをしていないと言ったのです・・・まったくのデタラメ、あからさまな嘘じゃないですか!」

スティーブは、パチンと音を立てて携帯を閉じた。そして、玄関ドアの方へ、力まかせに投げつけた。

「ロイド、僕がこの女性をもう一度信頼できるようになる方法など、あるとお思いですか?」

スティーブの義理の父は再びうな垂れることしかできなかった。下唇を噛んでいた。意味のあることなど何もできないし、何も言えない。

バーバラが死人のような声で口を挟んだ。

「スティーブ・・・お願いです・・・私は大変な間違いを犯してしまったけど、でもあなたのために償いができると思うの。約束するわ、もう二度と彼とは話さないから。二度と」

スティーブはバーバラを見ようともしなかった。

「スティーブ・・・愛しているの・・・今日、ここで起きたことをちゃんと考えてほしいの・・・過剰反応しないで・・・お願い、あなた」

「過剰反応?」 スティーブはあからさまに疑いきった声で訊いた。「過剰反応だって? 自分の妻がいそいそ出かけて他の男とセックスを続けていたと言うのに、過剰反応するなだと!?」

最後には怒声になっていた。バーバラは、行ってきたことを、できるだけ取るに足らないものに見せようとしている。そのことに対し、スティーブは突然怒りが湧き上がってきたのだった。スティーブは後ろを振り向いた。後になってから悔やむような行動だけはしたくないと思った。

その彼の背後からバーバラの低い声が聞こえた。声が震えていた。

「お願い・・・今はあなたが私を憎んでいるのは分かるわ・・・でも、もうこのようなことは二度としないから・・・お願い、スティーブ。元通りに私を家に入れて。・・・絶対、約束するから・・・」

「ここはすでに君の家ではないのだよ」 スティーブはバーバラの言葉を遮った。この言葉を聞いて、バーバラは目に鋭い怒りの表情を浮かべた。

「この家は、あなたの家であると同時に私の家でもあるわ!」

バーバラは激高して反撃に転じた。彼女の両親も意気を高めて、バーバラに加勢しかかったように見えた。

スティーブは、座ったまま黙って事態を見ていたリディアの方を向いた。

「みんなに言っていなかったのですか?」

リディアは頭を振った。

「あれが意味を持つことになる日が来るとは思ってもいなかったものでね」

「何なの?」 ダイアンが心配そうに訊いた。「何のことを言ってるの?」

スティーブは静かな口調で説明を始めた。

「リディアは、この家の権利証書にサインしたとき、僕の名前しか書かなかったのですよ。僕は、バーバラと結婚して1年後まで、そのことに気づかなかった。リディアはその後、それを変更する手間を取らなかったのです。僕がそうした方が良いと頼んでもしてくれなかった。現在、この家の所有者は僕なのです。バーバラとの共有財産とはなっていない」

しばし、部屋中、沈黙が続いた。バーバラ、ロイド、ダイアンの3人はリディアを睨んでいた。もっとも、当の老婦人はまったく悔やんでいる様子はなかった。

「まあ、そういうこと」 と肩をすくめ、それ以上、説明しようとすらしなかった。

「お母さん!」

「お母様!」

「おばあちゃん!」

老婦人は立ち上がり、玄関へと歩いた。

「まあ、してしまったことは、してしまったことだから。過去のことは誰にも変えられないし・・・できることは、今の状態から最善を引き出して、前に進むこと」

リディアは他の皆に向けて言った。

「もう、みんな、ここに集まって言うべきことは全部、言い終えたと思うけど?」

ロイドは頷き、立ち上がった。ロイドとリディアの例に倣って、バーバラとダイアンも立ち上がり、ゆっくりと玄関ドアへと向かった。

途中、ロイドは振り返り、半分、すまなそうな顔をした。何か言いかけたものの、結局は、うつむき、頭を振り、そして向きなおしてドアを出たのだった。4人が玄関前のポーチの先へ進むのを見届けて、スティーブは玄関ドアをしっかりと閉めた。その閉めたドアに背を預け、もたれかかった。

「前に進む?・・・いや、無理だ・・・・すまない、リディア・・・だけど、ここから前に進むなど不可能なんだ・・・とにかく今は・・・」

スティーブはそう囁いた。

つづく

[2007/01/30] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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