僕はブレンダに跳ぶようにして抱きつき、激しくキスをした。感触も香りも素晴らしい。僕の興奮は伝染性があったようだ。妻の喉奥から小さくあえぎ声が漏れるのを聞こえたからだ。長々とキスを続けた後、ようやく僕はブレンダの柔らかく肉感的な唇から唇を離した。
「わあ・・・こういう服を着るとあなたがこんな風になると分かっていたら、ずっと前からこうしていたと思うわ」
僕は大喜びだった。ブレンダはすでに気持ちをほぐし始めているようだ。僕は気持ちを込めて妻の体を抱きしめた。彼女の大きな乳房が僕の胸板に押し付けられる感触が大好きだ。いつもブレンダが着る服装だと、彼女の体の曲線を隠し、一種、効果的な緩衝装置として働く。ともかく、いま着ている服装のレースの感触が気持ちよかった。僕は、いったん引き下がり、美しい妻の天使のような顔を見つめた。
「ねえ、先に下に降りて、バーで僕を待ってくれないかな。僕は5分位したら行くよ。そういう風にすれば、僕たちは見ず知らずの間柄であるように振舞うことができる。僕は、君を口説いて、僕の部屋に連れてくる。そういう風にしたいんだ」
それを聞いていたブレンダの唇がゆがみ、笑みに変わった。
「トム? あなた、私をすごくエッチな気分にさせてるわ。困っちゃう。・・・でも、私、独りで下に行けるか分からないわ。とてもドキドキしてるの」
僕は答えを知っていたが、あえて訊いた。
「エッチな気分と、ドキドキした気分、どっちが大きいのかな?」
ブレンダは、小娘のようにくすくす笑い、僕の頬に、頬を擦りつけ、僕の耳に息を吹きかけるようにして質問に答えた。そして、ふいに向きを変え、何も言わずにドアへと向かった。
「部屋の鍵を忘れないで!」
僕が呼びかけると、ブレンダはハンドバックを軽く叩いて見せ、ドアを出て行った。
可愛い悪魔め。ブレンダは、最初から、独りで出て行くつもりだったんだ。妻は、かなり、気持ちをほぐしている。今夜は、ちょっとした夜になりそうだ。
ブレンダが出て行った5分後、僕も部屋を出た。エレベーターを降り、ロビーの前を通って、バーに入った。僕は、5分前の光景を想像した。僕のセクシーな妻が、このフロアを颯爽と歩き入った時の様子を。
バーは薄暗かったが、少し経つと、目も慣れて、歩くのに困らないくらいは見えるようになった。右手に進んだが、ブレンダの姿はなかった。そこで戻って、左手に進んだ。そしてようやくブレンダがバーのカウンターに座り、コーラを啜っているところを見つけた。ブレンダはアルコールは飲まない。突然、隣のスツールに座る男が、彼女に話しかけるのを見て、驚いた。僕は、妻のところに近づくのを少し待とうと思った。男との会話を終えるまで、待ってあげたいと思ったのだった。だが、奇妙なことに、すぐに終わると思った会話は、5分近くにまで続き、妻の方も会話をやめようとする素振りを見せないのだった。実際、ブレンダは、自分の座っているスツールの向きを、少し、男の方向へ回しさえしている。