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アンソニー・ブラウン:甘い香りがする男(6) 

僕は、2人の会話が終わるまで座って待つことにした。ウェイトレスに飲み物を注文したが、そのウェイトレスが飲み物をカウンターから持ってくるとき、バーテンダーがブレンダと男に飲み物を出していたことに気がついた。妻がカクテルグラスを手にし、男が差し出したグラスと触れ合わせて乾杯し、威勢良く飲むのを見て、僕は本当に驚いてしまった。謎だった。妻はこれまで一度もアルコールを口にしたことがない。彼女は、飲酒に対して眉をひそめる両親の元で育ったのである。僕が知る限り、これはブレンダにとって生まれて初めてのお酒だ。ひょっとするとあれは一種のソフトドリンクかもしれないが、あのピンク色のものは、僕の知っているソフトドリンクのどれにも当てはまらないように見えた。

2人の会話は、さらにもう10分ほど続いた。確信はなかったが、ブレンダが体を男に近寄せたように思った。何か話しの論点を言いながら、彼女が男の手を2度触れたのを見て、再び驚いた。こんなことをするのはブレンダらしくない。妻は、気軽に人に触れるタイプの人間ではないからだ。男が腕を妻の肩に回したのを見たとき、僕は僕がいることを知らせる時が来たと判断した。

立ち上がり、バーカウンターの2人が座っているところへ歩き始めた。そして、そのとき、妻が手を男の太ももの上に乗せているのを見たのだった。事態はますます変な方向へと動いている。

僕は方向を変え、ブレンダが気づくようにと男の背後に回った。妻は僕と視線は合わせたものの、僕がまるで赤の他人のように振舞って、会話を続けた。信じられない思いだった。ふと、さっき僕が言った、2人は見知らぬ者同士のように振舞うというのを実行しているのかもしれないと悟った。でも、彼女が話しをする相手としてこの男を選んだことに、少し驚きを感じていた。ハンサムな男なのだが、黒人だからである。たいしたことではないとは思うが、それでも驚きではあった。僕は、先に歩み、ブレンダの左、空いていたスツールに腰を降ろした。バーは、2人の会話が聞き取れる程度に静かだった。

ブレンダは相手の男をアンソニーと呼んでいた。彼はブレンダがデミ・ムーア(参考)に似ていると話しているところだった。ブレンダは以前から同じようなことを言われているのを僕は知っている。だが彼女は、その言葉を聞いて驚いて、嬉しがっているようだった。

「本当に、私のことデミに似てると思ってるの?」

「ブレンダ、君がデミ・ムーアと同じくらい可愛いのは確か。でも、君の体の線を見たら、デミなんか男の子にしか見えないよ」 淀みない調子で話している。

僕が座っているところから、ブレンダが恥ずかしさにうつむき加減になるのが見えた。

「本当に、私の体、デミのより良いと思ってるの?」

「絶対に。見えてる部分に基づいて、確かにそう言える」 アンソニーは、さらに急いで付け足した。 「見えていないところも見たいんだけど」

「アンソニー? もしかして、あなたがほのめかしていると私が思っていることを、本当にほのめかしているのかしら?」

僕は、この会話の進み方が気に入らなかった。

妻の質問にアンソニーが返事する前に、僕はブレンダに体を持たれかけ、言った。

「やあ!」

ブレンダは、僕の方を向き、会話を邪魔されたことで迷惑しているような表情で僕を見た。

「あら、トム」

そう言うなり、再びくるりとアンソニーの方へ向き直ってしまった。僕は呆気に取られた。

「ブレンダ」 今度は少し大きな声で言った。

彼女はまた向き直って言った。

「トム? 遠慮できないの? 私はアンソニーとお話しているのよ」

[2007/02/16] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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