「ああ・・・ちょっと良いかな、スティーブ。ちょっと時間をとって考え直してくれただろうか? バーバラは、ずっと泣き通しなんだ。それに私たち・・・ダイアンと私だが・・・いつか近々、ゆっくり腰を降ろして話し合うことができないかと期待しているんだよ」
「ああ、いや、義父さん。いやロイドと呼ばせてもらうけど、何も考える時間なんかありませんでしたよ。今週はずっと、周りにワニだらけの沼地に入ったようなもの(
参考)で、現場で起きる山ほどの問題をこなすのに精一杯でしたよ。・・・でも、そんなことがなくても全然関係ないでしょう。要点は・・・バーバラは僕に隠れて浮気をする選択をしたということ、そして、今度でそれは最後だということです」
「ああ、スティーブ・・・」 ロイドは落胆した声の調子になった。「私は、君が怒りを鎮めて、少し理性的になる道を探ってくれるのを期待しているんだが・・・」
スティーブは返事をしなかった。自分が理性的になっていないという仄めかしにカッと頭に血が上るのを感じた。それでも、いつの日か言わなければよかったと後悔するような言葉だけは言いたくなかった。
スティーブは、気を使いながら、言葉を発した。
「いいえ、ロイド。私の『怒り』とおっしゃいますが、僕はそれを鎮めるつもりなどありません。もっと言えば、どうして僕がそうすべきだと思うのか、そちらの言い分の方が理解できない・・・
「考えてくださいよ。もし、ダイアンが突然、他の男性と逢い始めたら、どう思いますか? ある日、ダイアンが下半身を裸にしたまま、他の男の車から這い出てくるのを見たいと思いますか? 自分の妻が、他の男に愛撫されながら、その男にキスをしているところをどうして見たいと思うんですか? そんなことが、あなたが望むことのリストで上位に位置することなんですか?」
ロイドは、少し間を置いて、返事した。
「いや・・・そういうことは望まない。だけど、もし仮に、そういうことが再び起きることを防いだなら・・・そうなりそうなところを押さえたわけだからね・・・そうしたら、妻と一緒に、それを乗り越え、前進するだろうと思うんだよ」
そこまで言ってロイドは静かになった。スティーブも同じだった。
「・・・スティーブ、少し過剰反応してると思わないかね?」
長い沈黙の後、ロイドが尋ねた。本心では、この言葉を使いたくなかったのか、速い口調だった。だが、ともかく、無理をしてでも口に出して発したのだった。
スティーブは下唇を噛みしめ、子供の頃、母にそうするように強制されたように、心の中で10まで数えた。スティーブは、一度数えた後、もう一度10まで数えなければならなかった。時には、10まで数えるだけでは、足らない時があるのものだ。
スティーブは落ち着いた口調で答えた。
「ロイド・・・今度、誰かが『過剰反応』という言葉を言うのを聞いたら、僕は怒りを爆発させてしまうと思います。こんなことを言うのは、ただ、僕がそうなった場合、あなたがそばにいないようにと思ってのことです・・・」
返事はなかった。
「ロイド・・・僕は疲れています。仕事が大変だったし、いくらか睡眠をとる必要がある・・・ですから、お願いです、もう今夜は、僕に電話しないでください。いいですか?」
「ああ・・・分かった、スティーブ。すまなかった。こんなに夜遅くなっていることすら気づかなかったよ・・・ゆっくり休んで、明日は元気になってくれ。いいね?」
「そうします。ありがとう、ロイド。おやすみなさい」
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