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シルクの囁き、ラベンダーの香り 第2章 (1) 

「シルクの囁き、ラベンダーの香り」 第2章 original

翌朝、クリスは早起きし、家の外、自分の車の整備をしていた。ドクター・レドモンドの車が家の前にあるのを見て、嬉しく微笑む。この日、朝食の席で、クリスの父は、この車をドクター・レドモンドの家に送り届けるのはクリスの役目だということをクリスに確認させた。クリスは、忘れていたフリをして見せた。だが実際は、昨夜、寝るまで、彼は、このこと以外何も考えていなかったのである。

率直に言って、クリスは、ドクター・レドモンドの車が、ツルツルのボディの真っ赤なオープンカーであるのを見て驚いた。BMW Z3のコンバーチブル(参考)である。彼女のような保守的な生活スタイルの人には似合わないと思った。だが、保守的な人ほど、時には、非常にワイルドになることもあるのである。

クリスは車に近づき、車内を見た。どうやら、ドクターは、美しい車に対する正しい感謝の気持ちを持っていないのは確かだ、と彼は思った。車の中が乱雑になっているのを見たからである。それに、外側のボディも、すぐにワックスがけをしなければならない状態になっているのを見た。クリスは溜息をつき、家の中に戻り、洗車とワックスがけに必要な用具を取った。このような美しい車をぞんざいに扱うのは、彼にとっては罪悪なのである。

車をすっかりきれいにし、ワックスをかけ、車内も掃除し終わるのに、2時間ほどかかった。レザーのシートにクリーナーを使い、光沢がでるようにした。それから窓を洗い、最後に屋根を畳み、オープンカーの状態にした。いまや、愛らしいオープンカーは、新車のようにぴかぴかになった。

クリスは11時になるのを待ち、父親に、ドクターの家に車を送りに出かけると伝えた。
「クリス、お父さんが、一緒に車でついて行って、戻る時に乗せてあげようか?」

「いや、いいよ。バスに乗るか、友達を呼び出すから」

そう返事したものの、本当は、ドクター・レドモンドと話すチャンスがあった場合、父親にはいて欲しくないと思ったクリスだった。

クリスにとって、このスポーティな車をドクターの家まで運転することは、実に楽しいひと時だった。ドライバーの操作に正確に反応する装置で、宣伝で言われている通りの操作性だった。

ドクター・レドモンドの家の前に着いたとき、クリスは思わずひゅうーと口笛を吹いた。昨夜は、よく家を見ていなかったのである。家の前、車を寄せる道が円を描くように通っていて、大きな屋根つきの玄関先へと通じている。まるで豪華な南部風のホテルのようで、大理石のステップをあがって大きな玄関ドアにつく形だった。眼の商売はかなり良いんだろうな、とクリスは思った。

クリスは、そのステップの前に車を寄せ、ひょいと車から降りた。ステップをあがり、ドアベルを鳴らした。かなり時間がかかってから、ようやくドアがかちゃりと音を立てて開いた。

[2007/02/19] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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