婦人は、私たちと同席することに決め、少し太めの体を滑らすようにして、私の右隣の椅子に座った。彼女が腰をおろす間、私は少しだけより綿密に彼女の姿を見てみた。顔は、多少、年齢を感じさせるものの美しいし、肌は若々しく、体も、少し大きいとは言え、均整が取れていた。明らかに、若かった時には、ひと目を惹く美人だっただろうと思う。婦人は身を屈め、バッグを脇の床に置きながら、私の靴に眼を向けていた。実際、少し必要以上に私の靴を見ていたと思う。それから体を起こし、今度は、少し恥ずかしそうに、私のピンクのブラウスに目を向けた。
「あなたのお家族は、ピンク色がお好きのようですわね」 婦人は、微笑みながら言った。
彼女が気弱に話題を切り出したのを見て、私は思い切り、その話題に飛びついた。
「ええ、そうなのよ。ビッキーも私も、ピンク色はとても刺激的だと分かったの」
婦人はにやりと微笑んだ。「そうね、ビッキーさんも、ピンク色がとても似合っているもの」
そこでゲイルも会話に入ってきた。「ビッキーさんって?」
私はゲイルに顔を向けた。「あら、そうだったわ。まだ、そこまで話していなかったわね。ビッキーというかビクトリアだけど、ビックと呼ぶより、そう呼んだ方が私たちのゲームには合っていると思ったの。ちょっと口を滑らせちゃって、話す順序を間違えちゃったわね・・・」
そのとき、私は、まだ自己紹介すらしていなかったことに気がついた。
「ごめんなさい。私の名前はドナ。そして、こちらがゲイル。ビックの秘書をしているの。そして、あなたは・・・?」
「ジャンヌです」 そう言って彼女は美しい手を私に差し出し、次にゲイルに差し出した。
「ドナ?・・・ビックはビクトリアになってどのくらい経つの?」
「本当のことを言うと、まだ48時間も経っていないの」
ジャンヌは呆気に取られていた。ゲイルの顔にも驚きの表情が浮かんでいた。
「でも、彼、女性のものを着けてひと目のつくところに出ていても、ほとんど快適って言ってよいほどに振舞っていたと思うけど。私、もっとずっと前からだとばかり思っていたわ」
「まあ、でも、信じて欲しいんだけど、彼、全然、居心地がよいわけじゃなかったのよ。彼をレストランへ連れ込むだけで精一杯だったのよ」
ジャンヌは、またも驚いていた。