「・・・はい・・・ここにいます」 囁くような小さい声で返事があった。「すみません、カーチスさん。私も、ここ何ヶ月か疑っていたんです・・・でも、辛いものですね・・・もはや無視できないこととはっきりしてしまうと」
その後、短い沈黙の時間が流れた。
スティーブは、何か言葉をかけるべきかどうか分からなかった。言葉をかけたいとは思ったが、どんな言葉をかけても、エレーン・ポーターの気持ちを鎮めるのに役に立たないように思えた。
「カーチスさん?」 ほんの少しだけ声に力が戻ってきているように聞えた。少しだけ、声に弾みがついている。
「はい、奥さん?」
「ビデオはどうなのかしら? ビデオがあるととおっしゃったでしょう?」
「ええ、えっと・・・大体10分くらいの、公園でのことを撮ったのがあります」
「それを見ることはできないかしら?」 落ち着いた声だった。
「もちろん、いいですよ。・・・その・・・今夜、ですか?」 スティーブは躊躇いがちに訊いた。
「いえ・・・何も、ぜひ今夜というわけではないんですが・・・厚かましく要求してると思われたくないので・・・」
「あ、いや・・・別に、そういうつもりで言ったんではないんです。ただ、私が奥さんの心情を理解しているということだけは伝えたくて・・・。私たちは・・・なんと言うか・・・真っ暗な部屋でお互いがどこにいるか手を出して探り合っているようなものだと思うんです。お互いのことをまだよく知らない。それに私は、今回のメールであなたの心を傷つけてしまっている。私は、もうこれ以上、悪い状態にしたくないんです。・・・どう言って良いか良く分からないのですが・・・こういうことを経験したことがなかったし・・・」
少し間があった後、エレーンが返事した。
「それは良いんです、カーチスさん。私も同じように感じているのです。主人が、カーチスさんのご夫婦にしてしまったこと、本当にお恥ずかしいですわ。私も何と言って良いか分からないんです・・・」
「でも、ひとつには、ご主人も私の妻も、すでに立派な大人だということがあると思います・・・お年寄りたちがよく言うように、一人ではタンゴは踊れないと言うじゃないですか。私たち夫婦に対して、関係を害することを行ったのは、私の妻なんです。だから、奥さんは、何も恥ずかしく感ずる必要はないんです。奥さんが悪いんではないんですから、ポーター夫人」
「・・・エレーンと呼んでください」 彼女の声は、前に比べ、より落ち着きが出てきていた。
「分かりました・・・エレーン・・・私もその方が気が楽です。私のこともスティーブで。いいですね?」
2人はその後も2分ほど会話を続けた。2人が知っている場所で、落ち着いて話しができるような場所がないだろうかと言う話題が主だった。結局、2人とも知っている小さなキャフェに話がまとまった。その場所なら、共に気兼ねなく話し合いができそうだった。
2人とも急いで夕食をとった後、実際に面会した。そのキャフェでは、翌日の早朝、深夜営業のクラブが終った後の時間帯までは、客が少ない。2人はたっぷり時間をかけて話し合えたし、スティーブもビデオを見せることができた。ビデオはまだカメラの中に入ったままだった。早くこの画像をDVDに変換できる人を探さなければと、スティーブは改めて感じた。
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