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ポルノ・クイーンの誕生 第3章 (5) 

ディナー・テーブルをセットした後、私はトレーシーを探した。彼女は、マークの書斎で何か書類を読んでいた。トレーシーは私を見ると、にっこり微笑み、手を差し伸べて、私もデスクのところに来るよう招いた。

トレーシーのそばに寄ると、彼女は私を引き寄せ、膝の上に座らせた。

「この服装、素敵よ。良いチョイスだわ。あなたには服があまりないのは分かってるの。少ないながらも、上手に選んできたじゃない?」

「ありがとうございます。喜んでもらえたらと期待していたんです」

「とても嬉しいわ」

トレーシーはそう言って私にキスをした。

キスが終わり、私は要件を伝えた。

「ミス・トレーシー? あなたがオーケーを出してくれたらの話なのですが、マリアが、金曜日に予定されている彼女のお医者様との面会に私も一緒に行って構わないと行ってくれたんですが」

「もちろんオーケーよ。でも、何か体の具合が悪いわけじゃないんでしょ?」

「いいえ、具合が悪いわけではないんです。そのお医者さんは、マリアが、整形で通っているお医者さんなんです。私も、それを始めたいと思って」

トレーシーは再び私にキスをした。

「それをしなくちゃいけないわけじゃないことは分かっているわね? マークや私が、あなたにそれを強制しているなんて思って欲しくないの」

「分かっています。私自身が、したいと思っているんです」

トレーシーは私を抱きしめた。

「あなたがちゃんと最初から最後まで考え抜いたかどうか、まだ不安だわ。金曜には、ぜひ、そのお医者様に面会すべきだと思う。でも、もう2ヶ月くらいは、大きな整形は控えるべきだと思うわ。そのお医者様がホルモンを処方なさったら、それを服用するのは構わないけど、まだしばらくは手術をすべきじゃないと思うわ。それに、支援グループに加わるべきだとも思うの。あなたと同じことをしようと思っている若い人たちのための支援グループ。これだけは覚えておいて。ある人には正しいと思えることでも、別の人には正しい判断ではないことがあるのよ」

トレーシーが言ってることは多分正しいことなのだろうとは思ったが、それでも私は、がっかりした気持ちを隠すことができなかった。

「それがベストだとお考えなら、そうします。でも、おへそのリングはどう思いますか? 私が、ひとつ、つけてみても大丈夫だと思いますか?」

トレーシーの返事の声には、私の質問を何か面白く感じているような調子があった。

「ええ、もちろん大丈夫よ。第一、気に入らなかったらいつでも外せるでしょう? それに、もうそろそろ、そのピアスピンの替わりに、普通のイアリングにしても良さそうに思うわ。もうすでに、穴のところは充分、癒えてるはずだから」

トレーシーは私を寝室に連れて行った。そこでダイヤのピアスピンを外し中サイズのイアリングをつけてくれた。それから練習用の金のピアスピンを外し、そこにダイアのピアスピンを替わりにつけてくれた。

鏡を見て、驚いた。新しいイアリングのおかげで、自分の顔が、ずっと年上に、ずっと女性的に変わっていたからだった。トレーシーも私の変化に気づいたようだった。

「この方が、ずっといいわね。さあ、そろそろ玄関に行きましょう。マークがそろそろ帰ってくる頃よ。玄関先で出迎えましょうよ」

私たちが玄関に行くのと、ほぼ同じくして、マークが入ってきた。マークは私の唇に軽くキスをし、次にトレーシーの方を向いた。2人は2分ほど熱っぽくキスをしていた。私は夕食の準備を確かめるため、その場を離れた。

キッチンに行くと、マリアは夕食の料理の最後の仕上げをしているところだった。私を見て訊く。

「それで? トレーシーは大丈夫だって?」

「ええ。でも、2ヶ月ほどは、大きな変身はしない方が良いと言われました」

私は、がっかりしている気持ちが伝わるような声の調子で答えた。

マリアはくすくす笑った。

「お医者さんもきっと同じことを言ったと思うわ。女の先生なんだけど、彼女はゆっくり進めるのが好きなの。さあ、それじゃあ、食事をテーブルに並べるのを手伝ってちょうだい。すぐにマークが帰ってくるはずだから」

「もう遅いですよ。マークはもう帰宅してます」

「ああ、良かった。だったら、彼が食卓につくときには、温かい状態で出せるわ」

マリアと一緒にダイニング・ルームに食事を運び始めたとちょうど同じく、トレーシーとマークが入ってきた。トレーシーとマークはテーブルの両サイドに、私とマリアはそれと直交する両サイドに、それぞれ向かい合って座った。

マークは自分の皿に料理が盛られたのを見計らって、マリアに訊いた。

「それで? マリア。どういうわけで、君と一緒に食事ができるという嬉しい事態になったのかな? 僕には、ブライアンと別れたと言ってくれていないよね?」

マリアは、マークがブライアンを嫌っていることを知っていたためか、微笑みながら答えた。

「実は、その通り、別れたんです。それで、もし、気に障らなかったらのことですが、どこか新しい住処が見つかるまで、ここに何週間か私を置いていただければと思ってるんです」

「君はいつでもこの家を自分の家と言ってよいのは分かってるはずだよ。好きなだけ、ここにいなさい。家賃もタダなのだから、当然、お金など気にせずに」

マリアは優しい笑みを浮かべた。

「ありがとうございます。私が落ちそうになると、いつもあなたとトレーシーが私を受け止めてくれると頼れて、いつも助かります」

マークは、そんなこと何でもないと言わんばかりに手を振って見せ、食事を始めた。

[2007/08/09] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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