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心が望むものをすべて 6 (10) 

女性化途上の女の子たちが、1日1日、生き延びるためにどんなことをしなければならないか、それを書きあらわした章こそ、ダニーの本の中でも、最も心に触れる、いや、最も心を掻き乱される章だった。そういう女の子は、完全に「正体を読まれない」ほど女性化している場合や、鉄の守りをしてくれる完璧な書類を携えている場合、あるいは単に非常に運がよいといった場合を除けば、偏見を持った雇い主によって求人市場から締め出されるのが普通なのである。最低賃金の雑用の仕事ですら、確保するのが困難なのだ。それが現実だった。

ファッションと美容の職域が、彼女たちに職場を得る機会を提供する場合も確かにある。この本の著者自身は、この道を選び進み、「(この本を書く上での)下調べ」の過程で、美容師とエステティッシャンの資格を得た。だが、このような女の子たち全員が、その業界に入れるわけではなく、全員が、その業界に適した才能を持っているわけでもない。

美容ファッションの業界につけなかった者たちは、日々の生活のため、別の方法を探さなければならないことになる。好まれる進路としては、「夫(あるいは男性の愛人)」を見つける、というのがある。だが、この道には往々にして危険が伴う。中でもシュガー・ダディと呼ばれる「素敵なおじ様」が見つかれば、確かに、この世の天国だが、本当の「素敵なおじ様」はめったに存在しないし、どの女の子も、そういう「おじ様」を魅了できるわけでもない。

伝統的には、日々の生活のため、小切手詐欺の手段が取られてきた。最近では、クレジット・カードやATMカードの詐欺も加わってきている。また、いつの時代も最下層の仕事としてあるのだが、麻薬など薬物の売人になるという手段も選ばれてきた。もっとも、この場合、売人である彼女たち自身が、売り物の薬物に手を出してしまうケースが非常に多い。そして、いわゆる「デートクラブ」という仕事も・・・・

ダニーが、「デートクラブ」について、こと細かく記述する文章を読みながら、私は死にそうになった。彼女が実際に現場にいなければ、これほど詳細に書けるはずがなかったからである。以前、私は、ダニーが他の男性とセックスするところを夢み、それを見たらどんなに興奮するだろうと思っていた。あの「ゴーサム」での、彼女と一緒に行った経験こそ、まさに夢に描いていたことだし、いや、夢以上の興奮をもたらしてくれた出来事だった。だが、これを読んで、実際に彼女が「仕事として」これを行うことの持つ、より暗い側面を知った後は、もはや、その暗黒面が私の頭の中から離れなくなってしまった。私が愛する素敵なダニーが、見知らぬ男とセックスをし、その儲けによって、日々、食べて生活し、あまりを少しずつ蓄え、彼女が描いているゴキブリ・ホイホイのような小さな安アパートの家賃を払う。そんなことを思っただけで、背筋が凍った。

本全体を通して、ほぼ毎日のように彼女たちに向けられる憎しみ、嫌悪、疑い、そして、不意に襲う恐ろしい暴力の激しさのために、彼女たちの感覚が麻痺していく様子が描かれていた。これらに加えて、彼女たちのコミュニティの外からばかりでなく、内部においても、殴り合い、ナイフや銃による殺傷、手足の切断、レイプなどの痛々しい暴力が加えられ、渦巻いている(私は、これまで、ただ単にレイプされるだけで済むことが、運が良いことだとみなされる世界があるとは思ってもいなかった)。私のダニーがこんなどぶの世界に身を浸していたと思っただけで、壁に頭を打ち付けたい気持ちになった。そして、彼女ばかりでなく、毎日、そういう世界で生きている他の女の子たちのことにも思いを寄せた。

[2007/08/10] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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