ダニーによると、この本は、元来、メジャーな男性雑誌向けの自由契約による記事の執筆が始まりだったと言う(ダニーが女性化する前に言っていた『大きなプロジェクト』とはこのことだったに違いない)。ダニーは、この仕事に特に惹かれたらしい。思い出せるだけでも、このTガールたちの世界に、身内意識すら感じたと言う。だが、この仕事をつかまえることができ、運が良いと感じたものの、Tガールの世界は、外部者、特に男性に対して閉鎖的であることで悪名が高かった。執筆する話に正当性を持たせられるほど、この世界の人々に近づくにはどうしたら良いか、ダニーには分からなかった。ちょうどその頃、神の意思が働いたのか、ダニーの前に人生で最も愛する人物の形できっかけが出現した。私のことを言っているのだろう。そして、信じられない事態が連続し、ダニーは、易々と、このTガールという世界への入門を果たせたと言う。そして、男性のままだったら決して獲得できないユニークな視点を持ってTガールの世界を観察できるようになった、と。
記事の仕事にのめりこむほど、ダニーは、たった2500語の記事では、この世界を正しく描くことができないと感じた。そこでダニーは、書きかけの原稿を手に、雑誌社に行き、雑誌記事の執筆の契約は破棄し、替わりに本の執筆に切り替えてもらえるよう、交渉した。そして、ダニーは、他のTガールたちの話に加えて、自分自身の話を、詳しく描くことが可能になったのだった。
いくつかのトーク・ショーでダニーが語っていたことだが、このあたりの事情に関して、一つユーモラスな出来事があった。彼女が、今度は、女性として、雑誌社の本社に行ったときのいきさつである。ダニーが雑誌社に行くと、そのときの受付は勘違いしたのだった。受付の女性は、間違って、ダニーを、グラビアを飾るモデルのオーディションを行う部屋へと案内したのである。実際、最初の撮影が済むまで、この「間違い」には誰も気付かなかったらしい。後日、この話を聞いた出版部は、ダニーをもう一度、撮影部に行かせた。出版される本の宣伝に利用するためである。