「お若いの、全財産、賭けておいた方が良かったね。というわけで、これから、私は、お前さんにしょっちゅう電話して、お前さんの奥さんからのメッセージを伝えるし、お前さんからのメッセージもバーバラに伝えると。そういうことさ」
そこまで言ってリディアは声の調子を急に変えた。「これが一番良いと思うが、どうだろう?」
スティーブは笑い出してしまった。リディアはテキサス南部で生まれ、育った。だが、彼女は、東部にある一流私立学校で教育を受けており、その気になればの話しだが、一流名門階級の者たちとも、お上品にティーを楽しむことができるのである(参考)。リディアが急に話し方を帰ることについて、呆気に取られる人がいるが、スティーブには、これは魅力を感じるところだった。そしてリディア自身、そのことを知っていた。
「アハハ・・・ええ・・・そうですねえ、今日のところはバーバラへの伝言はありませんが」 スティーブは笑いながら答えた。
「だが、彼女の方はあるんだよ」 リディアは素早く答えた。スティーブは沈黙した。
「どんな?」 ようやく言葉を発したスティーブだったが、ぶっきらぼうな声になっていた。
「私と話すとき、そんな声で話さんでくれないかの、お若いの・・・そんな風に身構える必要はないのだから」 リディアは再びテキサス訛りを使った。
スティーブは溜息をついた。「ごめんなさい、リディア。普通は、僕はあなたが会話を操っても気にならないのですが・・・いや、僕はむしろ楽しんでるのですが・・・でも、今、あなたは僕の傷口を突いているんです」
しばらく時を置いてリディアが答えた。「いつも言っている通り、お前さんのことを非常に頭が切れる男だと思っていますよ・・・」 口調には責めるニュアンスはなかった。「・・・お前さんが何も言わないので、お前さんのことを低く見ている者が何人かいるけど、私にはすぐに分かったものさ。お前さんは、引き下がって、落ち着いて腰を降ろし、他の皆がバカなことをしているのを観察するのが好きな人間だとね」
リディアは、またしばらく間を置いた。
「・・・つまりね、スティーブ。お前さんとバーバラは、お前さんがちょっと手綱を引き締める気になってくれたら、素晴らしいカップルになれるということなのさ。・・・私も、この老いぼれ婆さんの私に考えられる全てのことを試すまでは、仲直りしたお前さんたちを見たいと思うのを諦めないつもりなのだよ。聞いてるかい? お若いの」
「ええ、聞いてますよ、リディア」 スティーブは冷静に答えた。「でも、僕には、そうする理由がなくなっているのです。バーバラは、僕の前で絆を断ち切り、僕を傷つけたのです。男にそういうことをする女と一生をとげるなど、僕にはできないんです」
「えぇ、それは分かりますよ・・・分かります」
しばらく沈黙が続いた。沈黙が長すぎると感ぜられるほどになり、リディアが口を開いた。
「スティーブ?」
「はい・・・聞いてます。ただ、何を言ったら良いか、思いつかなくて・・・」
「私も、そろそろ、電話を切って、お前さんには仕事の続きをさせることにするよ。でも、その前に、一つ、頼みたいことがあるんだよ。さっき言ったバーバラからのメッセージというのが、これなんだけどね」
「ええ、どうぞ、おっしゃってください」 スティーブは事務的に答えた。バーバラが思っていることを聞かされても、何の支障もないだろう。
「スティーブ? ・・・一度、カウンセラーに面会するというのはどうだろう?・・・カウンセラーでなくても、誰でもいいのだけど、バーバラとの関係を修復する手助けをしてくれるけど、お前さんができないと感じてることを無理強いしたりはしない人物だよ。どうだろうか?」
「いや、ダメです」 スティーブは即座に断った。「リディア、それには何の意味もありません。バーバラと僕とは、あまりに多くの点で、大きくかけ離れてしまっているのです。もはや、修復などありえません」
「でも、ともかく、ちょっと考えてみておくれ、スティーブ」
2人は、その後、数分、話を続けた。リディアは、さらに2回ほど、スティーブに、個人カウンセリングや結婚カウンセリングを受けてみることを頼んだが、リディアが、どの方向からその件にアプローチしても、そのたびにスティーブはきっぱり断った。リディアも最後には説得を諦めたが、それでも、スティーブに、時々、彼女に電話をするという約束は引き出した。
「ただ、おしゃべりをするだけだから」
「ええ、分かりました」
つづく