あるトークショーで、女性インタビューアーが、ダニー自身の変身について、突っ込んだ質問をした。
「ダニエルさんは、前に、ご自身がトランスジェンダーになっていなかったら、このトランスジェンダーのコミュニティには近づけなかっただろうとおっしゃいましたよね? ということは、あなたは、特に、この本を書くために変身なさったということでしょうか?」
「いいえ、もちろん違います。正直、私が女性化を始めたときには、この話を書くことなど、考えてもいませんでした。こういう欲求は前からずっと抱いていたのです。ただ、現実世界での自分の存在や他者との関係を台無しにしてしまうのではないかとの不安から、実際には行動に移していなかった。私の変身は、私と彼女という、2人の大人の間の、同意を踏まえた、性に関する実験から始まり、そこから開花したのです。彼女は、その実験を止めたいと思わなかったし、私も同じ考えでした。それによってTガールのコミュニティに加わることができるようになったわけですが、それは嬉しいオマケにすぎません。変身したことについても、この世界に加わったことについても、私はまったく後悔していないのです」
「あなたの変身は、あなたが人生で最も愛している人物によってもたらされたとお書きになっていますよね? その人とは、あなたの奥様なのでしょう?」
「実際は、彼女は私が彼女の妻であるとみなしていますが」
「その方は、・・・何と言うか、あなたより男性的なのですか?」
「いえ、全然。彼女なら、雑誌のグラビアも飾れます。私なんかは、そういう風になれたらと夢に思うことしかできません。彼女と一緒だった頃、私は、世界中の人に彼女の美しさを見て欲しいと思いましたし、一緒にいられることで私はなんて運が良いのだろうと思っていました。彼女の身元を明らかにしない理由は、私が彼女のプライバシーを尊重しているから、ただそれだけです」
「わーお! あなたの変身の話題に戻りますが、彼女も喜んでいましたか? つまり、彼女は、女性になったあなたといて楽しんでいたのでしょうか?」
ダニーはにっこり微笑んだ。
「一晩に、数回も」
インタビューアもにやりとした。
「お2人が別れてしまった原因は、もっと普通のカップルについて別れてしまう原因と、どのような点で、異なるのでしょうか?」
「異なるところはまったくありません。私たちのことを人々がどう見ているかに関わらず、私と彼女は、他の人々とまったく同じ、個人的・社会的プレッシャーを受けました。私たちが別れた原因は、残念ながらと言うか、幸いにもと言うか、どの別れたカップルにも共通したものだったのです。どのカップルも、別れるときには別れてしまうのです。ジェンダーの問題とは関係なく」
「どうしても目に入ってしまうのですが、あなたはまだ結婚指輪をはめていらっしゃいますね? 離婚したわけではないのですか?」
「いいえ。正式には、私たちは別居しているだけです。ただし、彼女が、最近、何か、私が知らない行動を起こしていたら話は別ですが」
「ということは、寄りを戻すチャンスもあるわけですね?」
ダニーは再び微笑んだ。内省的な表情に変わった。