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報復 第4章 (1) 

「報復」 第4章 Chapter 4

7月下旬

かれこれ、6週間ほど、スティーブはバーバラに会っていなかった・・・あの土曜日にバーバラの実家に行って対決したときが最後だった。彼は、今からバーバラと面会することになっていたが、まったく気乗りがしていなかった。こんな場所にいたくないと感じていた。結婚カウンセラーのオフィスで妻に会うなど、まったく望んでいない。こんなことをしても無駄なのだから。

だが、3日前、スティーブは本社の会計責任者のオフィスに呼び出されたのである。その肩書きを持っている人物はウィリス・ジョンソン。彼は会計責任者ではあるが、自分が手をつけたいと思った案件なら、どんな案件でも最終決定を行える実力者でもあった。ジョンソンは、会社のオーナー兼CEOの幼馴染であった。2人の交友はすでに60年以上も続いている。したがって、ジョンソン氏が何かを言えば、それはすなわち会社のオーナーの声でもあると考えてよい。

ジョンソン氏の話しぶりは穏やかなものであったが、明瞭にメッセージを伝えるものでもあった。会社の重役陣は、近々、スティーブ・カーティスを地区責任者へと昇格させることを良い決定と感じているし、今でも、次の秋に現職の責任者が退職したら、すぐに君にその地位に上がって欲しいと感じている。

「・・・・ではあるが、ストレスが多い地位の人間を支えられる配偶者との関係を有する人物を選ぶ方が、会社にとってより良いと、首脳陣は考えている」

ともかく、それがジョンソン氏が言った言葉だった。

スティーブは、この会社側の言葉の背後にある理由について、素早く考えを巡らせた。黙って考えながら、返事を待たせてることに、済まなく感じたし、漠然とではあるが居心地の悪さを感じた。この会話の要点は次のことだろう。すなわち、新しい職位に昇進するには、自分がカウンセリングに行くという努力の姿を見せることが、ほぼ必要条件と化しているということ。そのような努力を行い、自分が、別居している妻と和解することである。それは、言葉には出されないが、強く求められているのは明らかだった。

スティーブは、上層部が、自分の離婚問題までも知っていることに気づいていなかった。ジョンソン氏との面会は、スティーブに悪い後味を残した。ジョンソン氏も快く思っていない様子だった。

その悪い後味を引きずったまま、彼は今、ここにいた。木曜の夜と言えば、スポーツ専門チャンネルのESPNで大学フットボールを見ながらのんびりと過ごせたはずである。だが、今、彼は、小さな待合室で、カウンセラーがオフィスに戻ってくるのを待ちながら、妻と向かい合って座っていた。バーバラは、何度か話しかけ、会話をしようとしたが、スティーブは、それに合わせるのを拒み、どの問いかけにも、肩をすくめて見せるか、「ああ」、「いや」という短い返事だけで答えた。

突然、ドアが開き、背が低く丸々と太った、ワイシャツ姿の男が忙しそうに入ってきた。中年の後半ほどの年齢で、酒飲みの赤ら顔をしており、頭は、白髪が頭部を巡り、頭頂部はピンク色の肌が露出していた。年の割りに元気がよく、恐らく自分のデスクがあるのだろう、奥のオフィスへと足早に向かっている。大きな声でスティーブたちに言った。

「いやあ、すまない、すまない・・・今夜は、環状線の渋滞が酷くてね。・・・さ、こっちに・・・こっちに来てください。始めましょう」

彼はオフィスのドアを開け、中に入った。スティーブは、面食らったように瞬きをし、肩をすぼめて見せ、億劫そうに立ち上がり、男に続いて中に入った。バーバラには目もくれなかった。

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[2007/09/06] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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