ヒューストン氏は話を続けた。
「よろしい。さて、それでは、いくつか基本のルールを作ることにしましょう。その後で、お2人が考えている、一番大きな問題は何なのかをはっきりさせて、今日はお開きとしたいと思います。・・・奥さん? 奥さんは今は働いてはいないんですよね? その通りですか?」
バーバラは頷いた。
「・・・それでは、今度の月曜日はどうでしょう? 月曜の午前中に、また、ここに来ていただけませんか?」
バーバラは無言のまま頷いた。
「それに、ご主人。ご主人には水曜日の午後を開けておきます・・・何か問題がありますか?」
スティーブは肩をすくめて見せた。特に、問題がないとは言っていない。
「・・・分かりました。・・・で、木曜日のこの時間に、お2人一緒に来てください。よろしいですね?」
スティーブは軽く頭を下げ、承諾を示した。バーバラは、スティーブより少し乗り気な様子で頷いた。彼女は、スティーブがむげに拒否しなかったことに内心、喜んでいた。
「よろしい・・・後で秘書に、この面会時間のことを伝えます。秘書からお2人に確認の電話がいくと思います。よろしいですね?」
バーバラもスティーブも、同意を示す言葉を呟いた。
「オーケー・・・それでは、私のほうから、に、さん、お話をさせてください」 ヒューストン氏は落ち着いた口調で話した。
「まず第一にお伝えしたいこと、というのは、この場では私は事実しか受け入れないということです。それは当然だと分かっていただけると幸いなのですが。お2人の間で行われるすべてのコミュニケーションにおいて、完全に、100%、誠実になることが基本となるべきなのです。でないと、お二人の夫婦関係を元通りの軌道に乗せるにさせる可能性などありえません。その点は理解いただけますか?」
ヒューストン氏は、バーバラを見て、次にスティーブへ視線を移し、さらに、またバーバラからスティーブへと同じ視線の動きを繰り返し、2人を見た。
「私は、それで結構です」 スティーブは明言した。バーバラも頷き、同意した。
「よろしい! ・・・では、始めることにしましょう」
ヒューストン氏は、両手を擦り合わせた。まるで、これから3人で始める旅を楽しみにしているような仕草だった。
「さて、奥さん・・・奥さんにとって、ご主人との夫婦関係にとって最も破壊的と感じている問題をお話いただけますか? 一番大きな問題を一つ。・・・お2人がここに来ることになった、問題のことです。それは、何だとお考えですか?」
バーバラは、これを質問されるとは考えていなかった。しばらくの間、ただ、うつろにカウンセラーの顔を見ている時間がすぎた。
「・・・私は・・・彼が・・・あ、つまり、私は大きな間違いをしてしまったんです。この問題の男性と会ったということが間違い。夫は、私たちが一緒にいるところを見つけた。そして、考えられるうちで最悪のことが起きていると見なし、私とその男性を攻撃したのです」
バーバラの声は、話しが進むにつれて、力が増していた。
スティーブは、熱くなって反論しようとしたが、留まった。ヒューストン氏は手のひらを彼に向けて見せ、制止した。
「ご主人、お願いしますよ。奥さんに、奥さんの見地から、問題をはっきり説明させてあげてください。ご主人の見解は、その後、お聞きします。事態について、あなたがどう感じているか、それを奥さんに伝える時間は、好きなだけ用意しますから。よろしいですね?」
スティーブは深呼吸して気持ちを落ち着かせ、目を閉じた。唇を噛みながら、頷く。
「ありがとう・・・。みんながルールに従えば、すべてが、ずっと滑らかに進行するものです。では、バーバラさん、お話を続けてください」
「はい・・・まあ、基本的には、さっきの通りなんですが・・・」
バーバラは、頭の中で何か整理するため、また少しだけ沈黙した。