バーバラは続けた。
「確かに、私は間違ったことをしてしまったとは思います。あの日、あそこにレイフ・・・その男性の名前ですが・・・彼と行くべきではなかったのです。・・・で、でも、万が一、私が何かひどい間違いを犯すことになっていたとしても、それをする前に、夫が現れたおかげで、結局、何も起きなかったんです」
「・・・それに、私・・・夫は、私が感謝しても、聞いてくれないんです・・・私自身は、スティーブが思っているようなことは何もするつもりはなかったと思っていますが、ともかく夫が現れてくれたおかげで、何も起きなかった。そのことを感謝して、私はとても嬉しかったと言っても、信じてくれようとしないんです。・・・実際、彼・・・レイフとは一切、性的なことはしないつもりでいたのですから・・・」
そこまで言って、再び静かになった。
「奥さん、お話はそれですべてですか?」
ヒューストン氏の問いに、バーバラは頷いた。
「ただ、1つだけ。それは、私は夫を愛しているということです。私が愛しているのは彼だけなのです。夫は信じてくれませんが・・・それに、私は、夫と2人で、このことを過去のことにし、元通りに戻り、一緒にこれからの人生を歩んで行きたいと、それだけを願っているんです。・・・最大の問題は、夫が、私のことを信じてくれず、このようなことを二度とする気はないことを理解してくれないことなんです」
「実際、そのときのことを見てみたら、何も起きていなかったことが分かるはずです。確かに他の男性と一緒にいましたが、その人とセックスしたわけではありません。夫には、その点が分からないんです。・・・そう、夫は理解しようとしない。誰に聞いても同じことを言います・・・実際には起きていないこと、それをあまりに深読みしすぎて、誇張している。そこさえ理解してくれたら、私たちはもっと幸せになれるのに」
バーバラは、そこまで述べて、話は終わりといった身振りをして見せた。ヒューストン氏はスティーブに目を向けた。
「ご主人? ご主人は奥さんとの夫婦生活で、一番の問題は何だとお思いですか?」
「妻が、他の男性と・・・何と言ったらよいか・・・他の男性と不適切な関係を築くところです。妻は、本来、夫である私に向けるべき、尊敬の気持ち、時間、愛情、セックスを、他の男性に与え、その上、自分の行っていることについて、私や他の人に嘘をついています」
スティーブは、物静かに語った。彼には、バーバラが語っていた間、考えをまとめる時間があった。
少し間を置き、スティーブは話を続けた。
「今回が、妻が私に背いた3回目になると思います。彼女が、私たちの間に他の男を割り込ませた、3回目のことになると・・・私が名前と顔が分かるのだけを数えれば3回目。誰だか分からない男も混ぜれば、4回目になるとも思っています」
「すべての兆候は、私が3月から4月にかけて長期の出張に出て、それから帰った頃に出ていました。愛する妻は、私のそばにいるのに我慢できなくなったのでしょう。私と話しをしようとしなくなったし、私と愛し合うことも拒否するようになったのは確かです。・・・でも、その時点では、私は、妻が浮気をする現場を見たわけではなく、ただ、これで3回目だなと数えていただけ。とは言え、3回というのは、もう充分すぎます。私について言えば、この結婚はすでに終わっています。バーバラなら、一緒に遊びまわれる、誰か他の男を見つけられるでしょう」
スティーブは、淡々と述べた。
バーバラは、夫が説明をするのを聞きながら、口をあんぐりと開けていた。スティーブが話しを続ければ続けるほど、激しく頭を振り出すようになった。
「違うわ」 きっぱりとした声でバーバラが口を挟んだ。「それは事実じゃない!」