「ビッキーの出会い」 Vicki's Encounter by The Warthog
マイクは時間に遅れ、ビッキーは怒り始めていた。時間に遅れるなと言ったのは彼女の夫の方なのに、すでに約束の時間から30分経っている。マイクは今どこにいるんだろう。その日の午後、彼は友達の家に行っていて、午後8時にこのクラブでビッキーと会うことになっていた。家に電話を入れたが、誰も出ない。もう10分だけ、このバーにいることにしよう。それでもマイクが来なかったら、その時は家に帰る。そう決めたビッキーだった。
ビッキーがバーのスツールから降り、店を出ようとしたときだった。男性の声が聞こえた。
「やあ、君に1杯おごらせてくれない?」
ビッキーが振り向くと、目の前に彼女をまっすぐに見ている男の目があった。
ビッキーは、頬を赤らめた。男が彼女の長く滑らかな脚や曲線美溢れる体をしっかりと見ているのに気づいたからだ。彼女は明るく微笑んだ。
「ありがとう、でも・・・いま店を出ようとしていたところなの」
「お願いだよ。行かないでくれ。誰か話し合い手になってくれる美しい女性がいたらなあと思ってたところなんだ。君に帰られると、僕は、チャンスを逃してしまったと嘆いちゃうよ」
このハンサムな男性の笑顔には、磁石のような力があった。
家に帰りたいと思っていたビッキーだったが、少し躊躇ってもいた。
「まあ、そんなこと言わないで。ここにはきれいな女の人がいっぱいいるじゃない」
男はビッキーから目を離そうとはしなかった。じっと見つめたまま言う。
「他の女の人なんて」
確かにこの男性にはチャーミングなところがあった。でもビッキーは夫を待っていたのである。その夫がまだ来ていない以上、もう家に帰りたいと、それだけだった。
「本当のことを言うと、夫が来るのを待っているのよ」
男の目が輝いた。
「だったらなおさら。飲み物をおごるから、ご主人が来るまで、僕と一緒にいてくれればいいんじゃないかな?」
ビッキーには言い訳が尽きてしまった。結局、彼女は諦めて微笑む。
「オーケー。じゃあ待ってる間、あなたと一緒に飲むことにするわ」
男は顔をパッと明るくさせ、またあの魅力的な笑顔を見せた。握手の手を差し出して言う。
「ああ、良かった。僕の名前はデビッド」
「私はビッキー」
ビッキーは改めてデビッドの顔を見た。どこか見覚えがあるような気がしたからだった。
「前にあなたに会ったことがあるかしら? 見覚えがある気がするんだけど」
デビッドはにっこり笑った。
「君は野球を見る?」
ビッキーは頷いた。
「僕はちょっと野球をやってるんだ」
その時ビッキーはようやく気づいたのだった。デビッドがメジャーリーグの有名な野球選手だということに。
ビッキーは、夫のマイクに待たされていたことをすでに忘れていた。有名な野球選手に面と向かって会っていることで非常に興奮していたのである。実際、彼女は野球ファンで、これまでも何度かデビッドがとても素敵だと言ってきていた。自分がそのデビッドにもっと早く気づかなかったことの方がむしろ驚きだった。多分、彼が普段着でいたからだろう。ユニフォーム姿の彼を見ることに慣れていたビッキーだった。2人はお酒を飲みながらおしゃべりを続けた。ビッキーは教師という自分の仕事について話しをし、彼は野球界のことについていくつか話しをした。ビッキーは、彼の話しを聞きながら興奮を募らせていた。他の人々が知らない事柄を聞かされ、自分が特別な存在になったように思えたからである。