ジルは、その晩、夫が子供たちを連れて帰宅する前に、急いで簡単な夕食を作った。そして、料理のそばに、体調が悪いので早めに眠ることにするとメモを残した。何より独りになりたかったし、今の自分の悲惨な状態を家族に見られたくなかった。
夜、夫がベッドに入ってきた時、ジルは彼に背を向けて横向きになった。優しい愛撫を受けながら、ジルは心の中で、明かりを灯されなかったことに感謝していた。目からは涙が流れ、声を出して泣きたくなるのを堪えるために唇を噛み締めていたからである。このように汚されてしまったことが悔しくてたまらない。夫に事実を話したいとは思った。だが、他の男にレイプされ、汚されたなどと、恥辱のあまり、どうしても言えなかった。ましてや獣のような巨漢の黒人に犯されたのだ。それに、仮に妊娠してしまっていたら、どうなるのか、想像すらできなかった。
週末の日曜日が終わりに近づくにつれ、ジルは、翌月曜に学校に行くのが恐ろしくてたまらなくなっていた。最後にアーチーが言っていたことを何度も反芻した。学校の皆に自分がレイプされたと知られたら、決して、堪えられないだろう。黒人の用務員に犯され、ひょっとするとその男の子供を身ごもったかも知れない、なんて。その恥辱に、自分自身ばかりでなく、家族も破滅してしまうかもしれない。そして、アーチーは、それにつけ込んで、再び自分を脅かし、体を求めてくるかも知れない。それが何より恐ろしかった。
月曜日。ジルは、アーチーが意味ありげに笑ったり、先週、起きたことを仄めかしたりしないのを見て、内心、驚いた。むしろ、アーチーは、ジルを含めた教員たちに礼儀正しく振る舞い、日常の業務を真面目にこなした。毎朝、学校に行くと、ジルの教室はちり一つなくきれいに清掃されていた。以前より清掃が行き届いているとすら言えた。その週が終わる頃には、ジルの心に、多少なりとも普通の状態が戻りつつあった。生理があったことも彼女を安心させた一因だった。それでもジルは、アーチーに待ち伏せされることを怖れて、毎日、帰宅する時は他の教員と一緒に学校を出ることにしていた。
レイプ事件から1週間が過ぎ、次の週末になっていた。ジルは、事件のことを忘れ、愛する夫や子供たちと、もとの幸せな日常に戻りたいと思うようになっていた。日曜日の夜、それまでの1週間、ずっと夫を避け続けてきたジルだったが、この時は、夫の愛撫を避けることはしなかった。夫と愛し合いたい、そしてレイプの記憶を消し去りたいと思ったのだった。愛する夫に抱いてもらったら、それによって、自分の体が元通りに汚れがない状態になれるような期待があった。
しかし、夫との愛の営みは、惨澹たるものだった。以前は感じなかったのだが、夫の15センチのペニスでは満足できない体になっているのに気づいたのである。長さも太さも、物足りなさを感じてしまうのだった。それに、夫が簡単に興奮してしまい、10数回動いただけで、すぐに達してしまうことも不満だった。自分の中で、射精を迎えた夫のペニスがヒクヒク動くのを感じながら、ジルは目を固く閉じ、オルガスムに達した演技をした。射精を終え、ペニスが急速に萎えていくのを感じながら、ジルは腰を動かし、繰り返し突き上げた。その時、彼女の頭の中には、巨漢の黒人に再びレイプされ、気が遠くなるほど無数のオルガスムを与えられている姿が浮かんでいた。
翌週も、そしてその次の週も、特に変わったことがない毎日が過ぎていった。依然として、ジルは学校では警戒を怠らず、同僚たちと行動を共にするように心がけていた。また万が一に備えて、ピルも服用していた。
夫とのセックスも、やはり、不満な状態が続いていた。行為をする度、ジルは、夫が、あの事件のときに達したような快楽の高みに自分を導いてくれるよう期待し、その度に裏切られた。夫に対して、このような感覚を味わったことは、それまで一度もなかった。結婚してずっと、二人の愛の営みは、お互い満足できるものだったのである。それが、今は、変ってしまった。あのレイプによってジルが変えられてしまったのは明らかだった。嫌悪する男に暴力的に犯されたにもかかわらず、数え切れないオルガスムを、しかも、あれほど強烈なオルガスムを味わわされてしまった。夫には決して不可能なことを経験してしまった。夫とセックスするたびに、そのことを、いやがうえにも認識させられてしまうのだった。
レイプから3週間経ち、日曜日が来た。この日、ジルの夫は終日ゴルフに出かけることになっていた。子供たちも夫に同行し、ゴルフコースに行く途中にある祖父母の家に行って遊ぶことになっている。朝、ジルは家族のために腕を振るって美味しい朝食を作った。ジルは、白いヒールを履き、明るい黄色のドレスを着ていた。午前中に開かれる教会の礼拝にでかける予定だった。朝食後、玄関まで夫と子供たちを見送り、送り出した。彼女自身、あと何分かしたら教会に出かけるつもりだった。