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報復 第5章 (4) 

バーバラは、スティーブに気が散って困ると言わんばかりの顔をしてみせた。話しをするのが難しそうに見える。彼女は、話さなければならないことに意識を集中させ、スティーブのことを差し当たり脇役とみなし、あまり注意を払わないようにした。スティーブの皮肉や嘲笑も、この日のバーバラにはあまり効果がなかったようだった。

「私が言おうとしたことは、つまり、ポーター氏はただ・・・その・・・私に自慰を手伝わせたかっただけということです」

バーバラは低い声で言った。うつむいている。誰とも顔を合わせたくなかった。

「それに、私はズボンの上からしか、それをしなかったし・・・実際には、彼に触れたことは一度もない・・・それに彼も私の・・あの・・・あそことか胸とかに触れたこともなかった。そういうことは一切」

スティーブは、一言も言わなかった。ただ座ったまま、じっと妻のところを見ていた。バーバラはみるみる顔を赤らめ、一心不乱にヒューストン氏のデスクの上を見つめたままだった。

突然、スティーブは嘲るように鼻を鳴らした。

「それが真実? だとすると、君は、不倫を犯した女たちの中でも、この惑星上で一番哀れな存在に違いないし、ラファエルも、本当にそれ以上のことを君にできなかったとした、色男とは正反対の存在に違いないね! ・・・こそこそ色々隠れてやって、裏切りや嘘を繰り返したり、その他もろもろの偽りを行ったのに、ラファエルは、ちょっと手でやってもらうことしか得られなかった? 数々の情事の中でも歴史に残る、もっとも哀れな情事ってことになるだろうな!」

スティーブは吐き捨てるように言った。バーバラは彼に眼を合わそうとしなかった。

「ああ・・・もういいよ。僕は君を信じない! また今日も僕を騙そうとしている。嘘つき!」

バーバラはキッと顔を上げた。

「本当よ!」

バーバラは高ぶった声で応えた。スティーブの棘のある言葉に顔を真っ赤にしていた。だが、またも、視線をそらす。

スティーブは、バーバラが視線を逸らしたことを、言い逃れをしていることの印しと解釈した。頭を振って立ち上がる。

「彼女が真実を話す準備ができるまで、私は、さようなら、とさせていただきます」 彼はヒューストン氏を見ながら話した。「平気で人を騙す嘘つきといて時間を無駄にするより、もっとすべきことが私にはあるので」

スティーブはそう言って部屋から出て、ドアを静かに閉めた。

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[2008/02/21] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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