僕は社内では有望株と思われている。小さな部局だが、部長だ。会社では一番若年の部長だ。僕の次に若い部長は、僕より20歳年上で、その女性は45歳。つまり僕は25歳ということだ。僕は、工程統御部門のためのソフトウェア開発を担当している。それに会社のウェブ・サイト構築にも手を貸しているし、総務部の人たちが、IT部門に要求してもなかなか時間が掛かって応じてもらえない時、その人たちの手伝いもしている。
僕の部下には、ソフト開発者として、3人ほど、傲慢で嫌な若者がいる。全員、10代で高校を出たばかり。誰か知らないが人事部のバカが、現代の市場では、ソフト開発部門は、インドかイスラエルか、そんな場所に作るという道か、あるいは、年が若いので雇ってもたいした出費にならない間抜け顔のうすらバカどもを雇って、そいつ等にやらせるという道が主流だと聞いたらしい。そういう若者だと、やはり同じく間抜け顔のうすらバカと遊びまわった経験しかしてきてないのが普通だ。で、そうなると結果は自明だ。連中は仕事をやり遂げるということを知らないのである。プロジェクトがあったとして、連中は90%まではやるが、そこで飽きてしまうのだ。いつもバグだらけのプログラムを僕に渡してくるし、僕がどうして怒っているのかも理解しない。結局、僕自身でプログラミングを仕上げなくてはいけないことになる。そうしないと仕事にならないからだ、まったく。ああ、確かに、僕自身も子ども時代はあったわけで、色々学ばなければならない時期はあった。でも、少なくとも僕は、連中のような間抜け顔のうすらバカではなかった。
僕にも、言いたいことがある。正直に話そう。あのBRMCの連中は、うちの会社に仕事のやり方を教えに来ているが、僕には、その教えがどんなことか、すでに分かっている。うちの会社は、ネット上にしっかりプレゼンスを示し、Eビジネスを開始しなければならないのである。コンピュータの発展の観点からすると、我が社はまだ石器時代にいるようなものだ。確かにインターネット上にいることはいるが、ただ「名刺」を置いているだけのような現状である。商品購入や配送に関しての情報を顧客にオンラインでは示していない。ネット上での販売も試みていない。やろうと思えば、新しい市場を開拓できるのに。そうやって、本当の意味で21世紀に突入できるのに、できていない。やってることと言えば、すでに試みられた、従来どおりの古臭いビジネス方法だけ。他の会社が何か新しいことを試しているというのに。今までは運が良かったが、いずれ、それも尽きるだろう。少なくともこれが、僕の見解だ。
ともかく、僕はBRMCとの応対を担当する者のひとりだ。やるべきことと言えば、僕がバグ取りをし、専門的な見地から検査をしなければ使い物にならない、中途半端で放り投げられた6個以上のプロジェクトを整理して見せるだけ。そして、部下のうすらバカどもは、そういう専門的な知識が必要になるとまったくお手上げになってしまうやつらなのだ。
ディアドラ・マーチンは、僕を腰砕けにしてしまうような魅力的な声をしていた。南部訛りがあるが、北部で生活していることによる影響も受けているのは確かだ。というのも、僕が知ってる他のジョージア出身の人たちのような強い訛りがなかったから。初めて会話をした時、僕は彼女にどこの出身か尋ねた。当然の質問だったと思うし、南部から移住してきた彼女にとっても、いつも訊かれる質問なのだろうと思う。彼女は、オハイオに来て3年から4年になる。BRMCに就職し、コンサルタントの仕事をしている。