月曜日の朝。僕は数分遅刻してしまった(トレーラー・トラックが横転し、高速道路の出口やらなにやらが大混乱になってしまったのだった。・・・このことについては後で語るつもりだ)。会社に着くと、キャロルが、ディアドラが会議室で僕を待っていると言った。僕は深呼吸をして、心を決め、これからの僕の運命と対面しに向かった。
会議室に入った時、ディアドラは会議テーブルについていた。そして僕に挨拶をするため、椅子から立ち上がった。
僕は唖然とした。彼女はジョアン・ウッドワード(
参考)の顔を盗んだのか? 若き日のジョアン・ウッドワードだ。『熱く長い夏』のあのジョアン・ウッドワード。
髪の毛は短めでカールしている。ブロンドだ。もちろん、ブロンド。体を効果的に隠すビジネス・スーツを着ていたが、それでも、痩せ型なのに、曲線も豊かであることは隠しきれていない。もっとも、僕は彼女の体つきは気にしていなかった。そもそも、そちらに眼が行かなかったのだ。僕は彼女の瞳しか目に入っていなかった。あの青緑の瞳。丸く、無邪気そうな瞳。ほのめかし、招きいれ、尋ねかけてくるような瞳。でも、それだけじゃない。
ディアドラは、微笑みながら手を出し、握手を求めた。その瞬間、彼女の瞳がきらりと輝いた。まるで彼女がスイッチを入れたかのように瞳が輝いた。僕は、完璧に魅了されてしまった。まるで魔法だった。彼女の掛ける魔法に、僕はまんまと掛かってしまった。そして、次の瞬間、あのことが起きた。
僕と彼女の手が触れたこと。ディアドラは、ビジネス・ライクに友好的な挨拶として、僕と握手したのだが、僕の方は、その過剰な刺激に苦しめられていた。
ここで、僕は、僕が考察してきている奇妙な理論のことについて話さなくてはいけないと思っている。僕の最も神聖なものとして抱き続けてきた信念が、今、挑戦を受けていると感じたからだ。その挑戦を真っ向から受け止めるものが必要であり、それが僕の理論である。それがないと、僕の信念体系が完璧に破壊されることになるかもしれないからだ。
化学的なものということだ。それこそが正体。そうに違いない。化学的であり、物理的でもある。電気的なものが、そのどこかに介在してくるから。
僕と彼女の手が触れ合った瞬間、僕はすとんと腑に落ちた。普通のありきたりな握手だった。だが、その触れ合っている部分のどこをとっても、そこからエネルギーが沸いてくるように感じた。彼女の肌はベルベットのようだった。柔らかくて、すごく柔らかくて、滑らかで、つるつるしていて・・・ベルベットそのもの。彼女の皮膚細胞に含まれる何かが、化学物質のようなものか、DNAのようなものか、あるいはホルモンかもしれないが、何かそういうものが、僕の皮膚細胞に含まれる同種の何かを惹きつけたのである。
僕の理論とは、つまり、ある種の人間は、ある特定の他の人間に対して、化学的に惹きつけるものとなっているということである。そういう人間同士の体の化学的性質は、互いに合うようにできていて、まるで鉄と磁石のように引き付けあうということである。多分、ある種のエンドルフィンなのかもしれない。彼女のエンドルフィンは僕のレセプターにぴったりと嵌まった。何かが僕のレセプターにぴったりと嵌まったのだ。こんな衝撃を受けたのだから。
彼女と握手した瞬間。あれほど、興奮した瞬間は、それまでの一生で経験したことがなかった。一体、何が僕の身に起きたのか、まったく分からなかった。僕の仕事に関して、生死を左右する権力を持っているかもしれない人物と行う、普通のビジネス会議だったにもかかわらず、僕は恋に落ちた10代の若者のように振舞っていた。顔が赤らんでいるのを感じた。呼吸も少し乱れていた。僕は、彼女の手を握ったまま、彼女の瞳をうっとりと見つめたまま。最悪なことに、僕のあそこが、たった5秒間で、0度から60度に勃起していたこと。もしディアドラが、もう少しでも僕に近い位置に立っていたら、僕の勃起は、棍棒となって彼女を叩きのめしてしまっていただろう。いや冗談ではなく、彼女はジャンプして僕から離れた方が良いと、僕は真剣に思っていた。