2ntブログ



報復 第5章 (7) 

ヒューストン氏は話しを続けた。

「さて・・・ああ・・・カーティス夫人。私は、心理学者であれ、そうでない者であれ、これから私が言おうとすることについて反対する真っ当なカウンセラーはいないと思っています。ですが、あらかじめ奥さんに警告しておきますよ。これから言うことは、奥さんにとっては聞きたくないことになると思います。ですが、理解してもらわないと困る・・・ただ、聞くだけではダメです・・・ちゃんと理解し、納得してもらわないと困るのです・・・」

バーバラは頷いた。

「・・・オーケー、バーバラさん。私が奥さんに分かって欲しいことというのは、ご主人の見地からすると、奥さんがなさったことは、彼に対して行ったうちでも、最も破壊的で、自己中心的で、憎むべき行いだったということです。ご主人は、私に直接言ったわけではありませんが、奥さんが、何か清純で、明るいもの、何か俗にまみれていない素晴らしいものを奪い去り、泥で汚したように感じているのです。べっとりと汚れをつけてしまったと。ご主人が奥さんと出会った日から起きたことすべてを、茶番で嘘だらけのものにしてしまったと。ご主人は、自分自身が我慢ならない状態でしょう。奥さんのことも我慢できなければ、結婚自体も後悔している。すべての行動で頼りにできると信じていた、錨にあたる部分を失ってしまったと感じいているはずです・・・」

「・・・ご主人の見地からすると、奥さんは、しょっちゅう夫婦関係から逸脱を繰り返し、他の男性をチェックしてきたようになっている。他の男性とご主人を比較し、どっちが良き仲間であり、友達であり、パートナーであり、セックス相手であるかを確認してきていると。ご主人は、絶えず、この影の男たちと競争をされられているように感じているでしょう。だが、正直、ご主人は、そういう競争は奥さんと結婚した時にすべて終わっていると思っているのですよ・・・」

「・・・ご主人が、そういう風に考えるのは非常にもっともなことです。妻というものは、夫を絶え間ない競争と選択の試練に晒すべきではないのです。そのようなコンテストを行ったら、どの夫も常に敗北することになるでしょう。それは妻の立場でも同じです。夫が絶え間なく妻と他の女性を競争させていたら、どんな妻でも敗北してしまうものです。誰かと一緒に生活していれば、日々の生活で摩擦が生じるのは当然で、新しい恋人に対して抱くきらびやかな新鮮さに比べると、色あせたものに感じてしまうのは自明ですから・・・」

「・・・さらに悪いことに、ご主人は、間違った行いをしてきたことを理解していない。ご主人は、奥さんとの関係にかかわるすべてのことを性急に調べ上げ、自分の行いのうちで、奥さんを酷く傷つけ、その結果、奥さんが安らぎを求めて他の男性の元に行った原因は何かを探ってきた。だが、ご主人は、原因となった自分の行いが分かっていないのです。私が分かる範囲で言えば、スティーブさんは重要な点がどこにあるか察知できていない。そして、そのことが彼を苦しめているのです。ご主人は男性としての自分自身を疑い始めている。というのも、その点でしか、ご主人は、奥さんが離れてしまった理由として考えられなくなっているからと、私には思われるから・・・」

ヒューストン氏は、バーバラの顔に浮かんだ苦悩の表情から眼をそむけた。彼はスティーブが感じていることを分かっているように語ったが、これは、ヒューストン氏自身が20年前に経験したことに基づいていた。そして彼はバーバラが感じていることも分かっていた。人々を観察し、顔の表情や体の動かし方から、その人の感情を解釈するのは、彼の仕事なのである。ヒューストン氏は、バーバラが、自分の不貞によって夫にどれだけ影響を与えてしまったかを悟り、大きな心の痛みを感じていることを見て取ることができた。

「ヒューストンさん?・・・」 バーバラは、臆病そうに尋ねた。

「はい?」

「取っ掛かりのための良い方法と言うと、スティーブに、実際、私がレイフ・ポーターと何かをしたのは2回だけだったと証明することなのでしょうか? そうすれば、スティーブはもうちょっとだけ落ち着いてくれるのでしょうか・・・新たにやり直す取っ掛かりとなるような落ち着きを・・・そうすれば、彼は取り戻してくれるのでしょうか?」

「・・・多分・・・恐らく・・・でも、奥さん。ご主人は、分厚い聖書の中からたった2つだけエピソードを出して、それについて誓約しろと言われても納得しないでしょう。奥さんが、そういうことを考えているとしての話しですが・・・」

「いいえ、そういうことじゃないんです。でも、もし、私が嘘発見器テストを受けると言ったら、信じてくれるんじゃないかと思って。そのテストの準備をしていただけるならと思って・・・私にはできないので」

カウンセラーは、バーバラが言ったことを考えた。唇をすぼめている。やってみても、まずくはなさそうだ。ヒューストン氏は、名刺のファイルを調べ、受話器を取り、素早くダイヤルを押した。相手が出たらしい。

「マイルズ?・・・ベルンだよ。調子はどう? ちょっと話しがあるんだが。助けて欲しいことがあってね・・・」

********


[2008/03/05] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する