「・・・私は州警察でもパートでカウンセラーをしてるんですが、州警察はFBIと一緒に仕事をすることがあるわけですよ。そしてFBIは、いくらでも、コンサルタントを抱えていて、その中には、この分野での専門家もいる・・・私の話しについてこれていたら分かると思いますが。ともかく、ちょっとコネを使いましてですね、知り合いの友達の友達を紹介してもらったのですよ。それで、その人が、いろいろ仕事を差し置いて、今朝、このオフィスに来てくれたのです・・・」
「・・・ご主人、検査の結果、奥さんの性関係に関しては、回数も・・・その・・・行為の種類に関しても、偽りはないと判明しました」
スティーブは1、2分、ヒューストン氏の言葉を考えていた。彼の顔からは、何を考えているのか分からなかった。
ようやく、スティーブが口を開いた。「ひょっとして、僕は騙されているのだろうか。バーバラが、あの間抜け男に、2回ほど手でして上げただけというのは、信じがたいです。ですが、本当に機械がそういう答えを出したと言うなら、受け入れることができると思う・・・」
「・・・でも、それで何かが変わるとお思いなら、それには同意しかねます」 スティーブは、少し間を置いて続けた。「そういうことがたった一回だったとしても・・・あるいは、何らセックスにかかわることがなかったとしても・・・バーバラが他の男と会い、僕をないがしろにして、楽しんだという点は依然として変わらない事実なのですよ。それに、程度の違いがあれ、今回は3回目だったということを思い出して欲しいものです。過去に2回、同様のことがあった・・・過去の2回に関しても、バーバラを許した僕は正しかったと言いそうな人間は、100万人探しても一人もいないでしょう。だが僕は、そんな愚かなことをしてしまった。僕は3度目の過ちはしたくないのです」
「奥さんは真実を言っていた・・・私も、ようやくその点は認めました。そして、奥さんは、月曜に、これからは真実を話し、何も隠そうとしないと約束してくれたのですよ」
スティーブは、口をきっと結んだ。「バーバラが、あなたにでなく、僕に真実を話すと約束してくれてたら、ずっと良かったと思いませんか?」
「いや、奥さんは、先週の木曜日に、ちゃんと真実を話したのだと思いますよ。ちょっと・・・何と言うか、その確証を必要としただけなのではないですか?」
スティーブは、まあ、そうかも、と言わんばかりに肩をすくめて見せた。
「これは取っ掛かりなのですよ、ご主人・・・」 ヒューストン氏は、声に懇願するような色合いが出ないよう、注意しながら言った。懇願している調子で言ったなら、スティーブは、そこに突っ込みを入れ、否定的に反応してしまうだろう。そんなことになったら、もはや希望はなくなる。
「・・・ご主人と奥さんは、これまでの関係で、非常に痛々しく、非常にダメージが大きい出来事を3回経験してきた。それに対処しなければならないのは事実。ですが、その3回の出来事を除くと、デートの時期に和解した後、及び、結婚仕立ての頃には、かなり長い時間、お2人の仲が良かった時期があったことになるでしょう?」
スティーブは頷いた。
「ご主人、そのような楽しかった時期を、本当に忘れたいと思っているのですか? あなたと奥さんが、よりを戻す方法を見つけられるかもしれないチャンスが、いかにわずかなものであれ、存在するというのに?」
スティーブは、悪意に満ちた目でヒューストン氏を見つめた。
「ヒューストンさん、ということは、僕と取引しようとしているのですね? これまで起きたことをすべて否定してくれと僕に頼んでいるのですね? 怒りを脇において、この結婚がこんな風になってしまったことに対し、僕がいかに失意を感じていても、それを無視しろと言ってるのですね? ・・・僕に、感情をすべて抑制するのをやめる理由が充分にあるとお思いなのですね? 感情をあらわにすれば、妻が、これまでのくだらない出来事の数々にふさわしい女だったと判明するかもしれないと。わずかであれ、そんな可能性があるから、それを受け入れろと?」
ヒューストン氏は心の中で、スティーブが言ったことを反芻した。
「そう、そういうこと。・・・今の言葉、どこかでリハーサルなさっていたのですか?」
「いいえ。・・・この2年ほど、僕は、自分の上司は言うに及ばず、市役所や州政府の、驚くほど高い身分の連中に口頭で報告しなければならないことが何度もあったのです。機転を利かせて、事態を先に進める方法が、自然と身についてしまっているのですよ・・・」
そこまで言ってスティーブは間を置いた。「いいでしょう」
「え、何と?」
「僕は、毎週水曜日の午後、個別カウンセリングとやらを受けに、渋滞の街中をわざわざやってくることに慣れてしまったようですし、毎週木曜の夜に、妻が新しい作り話を繰り出すのを聞きに来るのにも慣れてしまったようです。・・・ええ、もうちょっとだけ付き合いますよ・・・でも、です・・・でも、そのうち、新しい仕事で頭がいっぱいになって、こんな解決には何の役にも立たないことを続けるのは止める日が来ると思いますよ。僕の言ってる意味、お分かりですよね、ヒューストンさん?」
「完璧に、分かります。ですが、続ける気があるのでしたら、まだ希望はある。ただし、続けるのでしたら、是非とも、カウンセリングに参加する気持ちで来て欲しい。もし、その気がないのだったら、こちらにいらっしゃらなくても構いません」
ヒューストン氏は、そこまで言って、スティーブの反応を観察した。「お互い理解しあえたと考えてよろしいでしょうか?」
「ええ、そう思います。分かりました」
スティーブはそう答えた。
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