「アンドリュー、私たち話し合う必要があるわ。私たちの間で何が問題なのか知る必要が在るの。私たち大きな仕事を抱えているのよ。私たちの仕事に運命が掛かっている人がたくさんいるの。このプロジェクトを進行させるに際して、私たちの間に、いかに小さくても摩擦があってはいけないのよ。もし私のことが嫌いなら、何とかできるわ。ランチを食べながら、ボブ・サイモンと話しをしたの。私たちが必要と感じた場合、チームとなるペアを交換しても良いって言ってたわ。私はメリッサ・トーマスとペアを組んで、あなたはボブとペアを組んでもいいって」
僕はパニック感が押し寄せてくるのを感じた。自分は、ディアドラと一緒に働くことすらできないほど、へまな動きをしてしまっていたのか。確かに、ディアドラと分離されて仕事をした方が仕事はうまくやれるだろう。だが、それは、ディアドラと一緒に仕事ができなくなることも意味しているのだ。それの方がダメージは大きい。まさに、最悪の大惨事じゃないか。
「ディアドラ、そういうことじゃ全然ないんだ。あなた以外に、僕が一緒に働きたいと思っている人はいないんです」
さあ、どうだろう? 変な言い方じゃなかったはずだ。小学生のように、彼女に泣いてすがりついたりはしていない。事実を端的に述べただけだ。実務的な口調で、平坦に。土下座するような雰囲気は出ていなかったはずだ。単に、彼女と一緒に働くことを気に入ってること、できれば、その状態を続けたいことを言っただけだ。
だが、ディアドラは僕の考えには組していないようだった。
「じゃあ、何が問題なの? あなたが、これまで会ったうちで最も神経質な人間であるか、他に何か原因があるかのどちらかでしょう? ねえ君! 私は、人から、あなたが神経質な人間ではないと聞かされているわ。だったら、何んなのよ?」
僕はコーナーに追い詰められていた。逃げ出す道を探していた。だが、この女性に、心の中を打ち明けることは、選択肢から除外だ。第一に、彼女は僕の世界の住人ではない。第二に、僕たちは仕事を一緒に行っている間柄だ。第三に、セクハラとなる可能性がある。スリー・ストライクでアウトだ。僕にできることは、暗い表情で、何も問題はないんだと訴えることだけだろう。
「アンドリュー、ちゃんと話して。私はボブとパートナーを交換したいとは思っていないの。でも、そうしなければいけないなら、そうするわ。この仕事は、それだけ重要な仕事だから」
僕はみじめな顔をしていたと思う。「ディアドラ、僕の問題は仕事関係ではないと思う。今している仕事とは何も関係ない。あなたと仕事をするのを楽しんでいないからという理由では、決してないのは本当だ。僕自身で対処しなければいけない問題なんだと思う」
「ねえ、アンドリュー? 私たち、何週間か一緒に仕事をしてきて、お互いを分かり合ってきたわよね。確かに、直に対面したのはつい先日だわ。でも、私に関しては、充分信頼を感じてもらっていると思うけど。そのガードをちょっとだけ下げられるほどの信頼は。約束するわ。あなたが何を言おうとも、最大限に秘密厳守するから。そのことであなたを問い詰めたりしないから」
僕は、「ああ、分かった」と呟いた。自分はもう少し大人だと思っていたが、他に何と言えただろうか? 言ったら言ったで後悔するし、言わなかったら言わなかったで後悔するだろう。何をしても、言っても、そして何をしなくても、言わなくても、この状況は、その時より、ましになっていただろう。ともあれ、言うことで自分が完璧なバカに見えさせてしまうと知りつつ、そのことを話すというのは、非常に難しいことだった。