木曜日:合同カウンセリング
「スティーブ。あなたに謝りたいの・・・心から謝ります。私は、長い間、あなたを傷つけたし、裏切ったし、騙し続けてきました。私は、あなたに対して、あんなことをして、これからずっと、申し訳ないと思い続けるでしょう。あなたは、今すぐには、私の謝罪を受け入れることができないと思っているわ。あなたの心をあまりにも遠ざけ過ぎてしまった。それは分かっているつもりです・・・」
「・・・私は、自分が、あなたや私たちの夫婦関係に対して行ってきたことを理解せずに、これからも手を組み合ってやっていきましょうと言い続けて来ました。その点に関しても、済まないと思っています。私の愚かな頭で考えて、結果、こんな大変なことになってしまった。もはや、わがままな幼い女子高生気分でいてはいけないことが分かったの。自分のやりたいことだけを押し進め、自分の望みや要求だけを通すために、他の人には、その人の望みや要求を取り下げさせることを期待する。そんなことが、いつも可能なわけではないと分かったの」
カウンセリングが始まってから、30分近く経っていた。その時間の大半、スティーブはバーバラに矢継ぎ早に質問を浴びせ続けた。彼は、バーバラが、質問全部に対応し、大半の質問に躊躇わずに答えたことに、非常に驚いた。
バーバラは、思い出せないこともあったが、その場合は思い出せないと答えた。彼女は、個々の出来事についてすべて覚えておくように、日記やメモのようなものを残しているわけではないことを、あらためてスティーブに伝えた。それに、これほど時間が経過してからも思い出せるような強い印象を彼女に残さなかった出来事もあった。スティーブは、その説明を受け入れたが、できるだけ思い出すように努め、後からでも彼に話すよう要求した。バーバラは、不明だった件をメモに書きとめ、思い出したら話すことにすると約束した。
この日、初めてバーバラは、レイフ・ポーターと一緒にいるところをスティーブに発見された日のことについて、すべてを語った。公園に行く車の中で、バーバラ自らブラジャーを外したらしい。ブラウスのボタンを1つ外すだけで、それができたらしい。彼女がそれができることは、スティーブ自身、何度も見たことがあるはずと言った。どうやってするかは、たいした謎ではないはずと。ブラを外した、時と場所、そして誰と一緒の時だったか、それが悪いことだったのは分かっていると彼女は言った。あの日の午後、レイフ・ポーターとセックスをするつもりはなかったけれど、もし、そういうことをする局面になったら、してもよいと思っていたのは確かだった、と彼女は告白した。
「・・・私、興奮していたの。ブラを外し、その後、公園という言わば公共の場で、下着も脱いで、セクシーで淫らな気分になっていた。そういう気持ちが、一緒にいるべきではない夫以外の男性と一緒にいるという状況にスパイスを加えていた。レイフが求めてきたら、多分、私は、その時に身を任せ、彼の求めに屈していたと思うわ・・・」
「・・・でも、レイフは、あなたがサンダーバードの後ろに車をぶつけ、水の中に押してきた時、まだ、そういう動きに出ていなかったの。彼は、ズボンのチャックを降ろして、自分であれを擦っていたわ。でも、私に触って欲しいとは言っていなかった・・・」
「・・・私たちの密会を邪魔したのがあなただと知った時、最初は、怒りを感じたし、その後、すごく怖くなった。顔に水をぶっ掛けられた感じだった。比ゆ的にもそうだったし、実際、文字通り、そうなったんだけど。汚い泥水まみれになった自分の姿を見て、その瞬間、これまでの自分の世界を自分の手で滅茶苦茶にしてしまったと悟ったの。どうやって元に直したらよいか分からないまま・・・」
「かきまぜた卵をどうやって元に戻すんだ?」 スティーブが口を挟んだ。
「それはできないわ。できることは、パックに残っている他の卵が全部割れないですむ道を探すだけ」
バーバラの率直な返答に、スティーブは、しばし口ごもった。