ディアドラは、例の謎に満ちた表情を顔に浮かべた。僕は、結果がどうであれ、自分の運命に身を委ねることにした。この法廷のご慈悲にすがるだけだ。もう僕の運命は、自分の手を離れている。
「アンドリュー? あなた、私が35歳だと分かってるの? あなたより10歳も年上なのよ」
「ディアドラ、あなたは100万歳かもしれない。年齢などないも同じ。時間を超越しているんだ。あなたはモナリサだし、クレオパトラだ。あなたが4万年前に生きていたとしたら、クロマニヨンの画家たちは、あなたの体を、永遠に残る石壁に刻み描いたと思う。プラトンも、あなたのことを『女性』の完璧なモデルと考えたと思う。他の女性がすべて、あなたと比較され、その人たちのどこが欠けているかを見出される女性のイデアと。年齢はあなたには何も意味しない」
僕は口を開いただけで、この言葉がすべて、流れるように口から出ていた。前もって考えたわけではなかった。この3日間、僕の脳の中を駆け巡っていた思考だった。彼女に言えと言われたので、言っただけだった。こう言っても、少なくとも僕はまだ言い足りない気持ちだった。
でも、ディアドラは、このようなことを聞かされるとは思っていなかったようだった。僕は、彼女が僕のことを少しのぼせ上がってると思っただろうと推測した。そして何か優しい言葉で僕の思いを和らげてくれるんじゃないかと。だが、ディアドラは、彼女が前もって考えていたより、事態がはるかに深刻だと考えたようだった。
「アンドリュー。私は、率直に言って、この会社の社員に敵をいっぱい抱えている、ただの年増の女なの。この話は、それのこと? あなた、自分のポジションを高めるため、私をたらし込もうとしてるわけ? そうなら、そんなことにはならないと考えたほうがいいわよ、坊や!」
ディアドラが怒りを募らせているのが見て取れた。
「ちょっと待って、ディアドラ。あなたが僕に話すように言ったんだよ。覚えているよね。僕があなたに言い寄ることで、あなたが僕を助けてくれるなんてこと、考えてもいないんだ。むしろ、僕はあなたに首にされると思っていた。僕が黙っていた理由の一つは、それだったんだよ。残りの理由は、あなたが僕の世界とはまったく違う世界にいるということ。僕がいる階級とは、一段階上の階級にいる人。あなたは誰もが憧れて、歌には歌うけど、決して手が届かないスターのような人。あなたを前にしたら、僕なんか、ただの子供にすぎないのは分かってるんだ・・・」
「・・・あなたに対して、思ってることを正直に話せと言うなら、正直に話すよ。正直、僕が一番だ。この会社の従業員の中で、僕が一番有能だ。会社はどうすべきか見通せているのは、唯一、僕だけだと言える。他の大半の男たちは、ビジョンも何も持たない、ただの老いぼれどもだ。連中のことは好きだよ。僕のことを誤解しないでくれ。連中を敵視してるとか、そういうことはまったくない。ただ、うちの会社の幹部グループのうちでは、僕がトップにいるということ。でも、あの幹部グループがこの会社をダメにしているんだ。そういうわけで、あなたたちがここに来ているわけだし。僕は一番ではあるけど、この会社は困った状態にあるんだ・・・」
「・・・僕が、会社の将来についての僕のアイデアをあなたに吹き込もうとしたことは白状するよ。でも、うまくいくアイデアなのは事実なんだ。僕のあなたに対する感情がなんであれ、どの道、僕はそのアイデアをあなたに伝えたと思う。たとえあなたが60歳の黒人女性でも話したと思う。ビジネス限定の話だから。個人的なことじゃないから」
ディアドラは言葉に詰まってしまったようだった。
「アンドリュー、私は、仕事一筋の女なの。週80時間から100時間、労働する覚悟でこの仕事を受け持ったわ。国中を出張で歩き回り、連日ホテル暮らしで、交際もまったくなし。ええ、交際してる人がいないの。その時間がないのよ。私は、ほぼ、あなたの母親と言ってもおかしくない年齢だわ。あなたはとても優しいし、あなたのことが気に入ってるわ。でも、そういう時間はないのよ」
「ディアドラ、前にも言ったけど、僕はあなたに何の期待も持っていないんだ。僕たちの間では何も展開しないと、最初から分かっていたから。あなたは僕が住んでる星とはまったく違う星から来た人なんだ。あなたに対して体が反応してしまうのは、どうにもできずにいるけど、分かって欲しいんだ。それを止めることができたら、ぜひ止めたいと思ってることを。だけど、これは化学反応なので、僕のコントロール能力を超えているんだよ・・・」
「・・・自分の夢に思っている女性が、まったく手の届かない存在だと知るのは、楽しいことじゃない。もう2週間もすれば、あなたがどこかに行ってしまうことも知っている。ひょっとすると、この国のどこかに、あなたのことを情熱的に、そして永遠に愛している若者がいると知るのは、あなたの自己を少しは癒すことになるかもしれない。でも、本当に、僕は何も期待していないんだ。何も必要でないし、要求もされない。でも、これだけは言わせて欲しいんだけど、その年齢とかの話をしても、僕には全然効果がないだ。あなたが忙しいのは知ってるし、仕事と結婚しているような状態なのも知ってる。あなたは大都会へ、僕は田舎町へ別れることになっているのも承知の上なんだ。あなたがそう言えば、僕は全部、信じ込む。でも言い訳として年齢のことを使うのは止めて欲しいんだ。全然、効果がない」