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報復 第5章 (12:終) 

スティーブは、特に感情がこもっていない声で語り始めた。

「君に会う前だった。僕の隣に若い女性が住んでいた。彼女は、ある夜、働いていたバーから帰る途中、何者かにレイプされた。当時、僕は足首を骨折していたので、普段ならありえないことだったが、その女性と一緒になることが多かった・・・」

「・・・デビーというその女性は、レイプによる身体的苦痛はとても酷いと語っていた。その男が暴力的に挿入したことにより、外陰部やバギナ内部の痛みはなかなか消えないと。だが、それより酷いのは、自分のプライバシーの最深部が犯されたという感情だと言っていた。レイプ犯はデビーから自己の意識・・・それが何であれ、彼女に強さ、自信、そして、自分はこの世で他にいない価値ある存在だと思わせる気持ち・・・その自己の意識を奪ってしまったのだと。男は、彼女から、人間として生きていくための何か特別なものを奪い去ってしまったのだと言っていた・・・」

「・・・僕は、彼女に、理解できると話した。彼女の言った言葉を理解したので、そう言った・・・でも、実際には、僕は理解などしていなかった。いまだに、僕は、自分が彼女の痛みをほとんど分かっていなかったと思う。彼女は、僕が本当のところは理解していないことを分かっていたが、それでも、僕が心を痛めているのを見て、慰めとして僕の言葉を受け入れてくれたと思う・・・」

スティーブは、しばし沈黙した。

「・・・理解などしていなかったんだ。理解できるはずもない・・・だけど、バーバラ、今は、僕も少しは手がかりのようなものを得たと思っているよ。今の僕の気持ちは、彼女が感じていた気持ちと似ているに違いないと・・・」 彼は肩をすぼめた。

「・・・いや、考え直してみると、それも違うかもしれない。彼女と僕の経験は、根本的なところで違いがあるから。そこは認識している。でも、僕は、前とは違って、彼女が僕に言ったことを、ずっとよく理解していると思っている。ずいぶん長い間、考える時間があったからね。今は、彼女の喪失感を前よりずっと理解できる・・・」

「・・・別の言い方をしよう。僕はデビーなら、今の僕の気持ちを理解できるだろうと思っている。彼女なら、自分の全世界がひっくり返ることがどういうことか、はっきり分かると思うから・・・」

「・・・僕は、自分の核の部分・・・僕のすべて・・・それが僕から剥ぎ取られ、ずたずたにされ、ごみのように放り捨てられた気分だ。また元のように自分自身のすべてを取り戻せるか、分からない。腹の中から湧き上がる恐ろしい痛みや、胸を覆う氷のような冷たさは、いつまでも消えないだろう。・・・痛むんだ。酷い痛みだ。僕はその痛みを、ずっと身近に感じていかなければならないんだよ、バーバラ。僕は、それしか感じられない。それ以外では、自分は死んだような感覚しかない。バーバラ・・・死んだような感覚、それだけだ」

スティーブは立ち上がり、ドアに向かってゆっくりと歩いた。途中、振り返り、バーバラとカウンセラーを見た。

「バーバラ、君には、僕がどう感じているか、全然分からないだろう。でも、いつの日か、分かるようになるかもしれない。いつか、君が僕にしたようなことを、誰かが君にするかもしれない・・・その時、君も僕の気持ちが分かるのじゃないかな」

スティーブは振り返り、ドアを出て行った。彼は、実年齢より50は老けた男のように見えた。

つづく


[2008/03/14] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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