僕の話を聞いて、ディアドラは、微笑んだ。半信半疑の笑みではなく、あの、ある種のスイッチをオンにするタイプの笑みだった。そして急に瞳を輝かせる。彼女がそれをしたら、僕は無力になってしまう。
「思うに、短期的な状況については、解決を試みた方が賢いんじゃないかしら。私たちの第一の義務は、このプロジェクトを、期日までに、限られた予算の範囲で仕上げること。私は経営コンサルタントだし、あなたはシステム・アナリスト。だったら、この2人の間なら、2人とも快適に仕事を進められるような解決案を思いつくことができるはずよ」
どうして、女性はこんな風に一気に方向転換できるのか、これは僕にとっては謎だ。僕は今、ここで、心情を吐露しているというのに、彼女の方はビジネスの話をしたがっている。彼女は、こういう風にして、境界を立て直しているということなのか。
ともかく僕はディアドラが考えていることが分からなかった。
「何のことか分からない。だけど、一緒にスムースに仕事ができる方法を思いつけるというなら、僕は全面的に賛成だ」
ディアドラは頷いた。
「良かった。というのも、実際、私は試してみても良さそうな解決案を思いついたから。私のこと厚かましいと思わないで欲しいんだけど、でも、アンドリュー、あなたがこの1週間ずっと、私に言わせれば、『ピンと固く張り詰めた』状態にいたのは、誰の目にも明らかだわ。あなたみたいに固くなっている男性を見たことがないと思うし、あなたほど、長い間、そんな固く張り詰めたままの人は、初めてなのは確かね。私の言ってる意味が分かればの話だけど」
彼女の言っている意味は分かっていたと思う。それに対して、どういう反応をするべきか分からなかった。つまり、この種のことに対して、どう言って謝るべきなのか? ミズ・マーティン、申し訳ございません、僕はあなたを思って3日間連続勃起していました、とでも言うのだろうか?
僕は、彼女は、僕が常時、股間を膨らませていたことに対して、考えられる答として2つ想定しているのではないかと思った。一つ目は、彼女は僕のことをセックス狂とみなしているかもしれないということ。どういうものか知らないが、常時、興奮状態で日々の生活を送っている男と考えているのかもしれない。
2つ目は、ひょっとすると、僕の状況は彼女自身によって直接引き起こされていると、ちゃんと分かっているのかもしれないこと。でも、男が、自分のことを思いながらしょっちゅう勃起させていると知った時、女性はどういう反応をするのだろうか? 軽蔑するかもしれない。だけど、勃起というのは、愛情表現の中でも、最も誠実なものとも言えるはず。自分の中に、25歳の男を淫らな想いで気が狂わんばかりにさせてしまうような魅力があると知っても、その女性の自意識が傷つくことはないと思う。
僕は、今後、ディアドラに対しては完全に正直になることに決めた。恐れであれなんであれ、包み隠したりしない。多分、酷い目に会うことになるだろうけど、構わない、こっちから望んで、そんな目にあってやろうじゃないか。
「私も、あなたに正直になっていいかしら、アンドリュー? あなたは私に正直に話してくれたし、そのことを心から感謝しているから。私は、誰とも交際していないの。それは言ったわね。顧客とは、決して係わらない。どんな小さな関係もダメ。そういうのは、ビジネス上、正しくない行いだわ。利害関係の摩擦が起きる可能性は際限なく存在するから。それが一番主要な理由。でも、それと少なくとも同じくらい重要なことは、私たち、このプロジェクトを成し遂げなければならないということ。性的な緊張によって邪魔されるわけには行かないの」
僕は、この話がどこにつながるのか分からなかった。
「それで、僕に何を言おうとしているのかなあ? 緊張をほぐすため、自慰をすべきだと言ってるの? でも、言うのも何だけど、この2日間、僕は10回以上、しているんです。でも、全然、効果がない。あなたが僕の近くに来るとすぐに、体の反応をコントロールできなくなってしまうんです。勝手に反応してしまうんだ。そいつは、僕がこの状況をどう思っているかなど、お構いなしなんです。そいつは僕のことを冷やかして笑ってると思う」