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報復 第6章 (1) 

「報復」 第6章

10月上旬

木曜日:合同カウンセリング

合同カウンセリング。「夫婦カウンセリング」とも呼ばれる。スティーブは、この言葉が嫌いになっていた。最近の彼は、バーバラとヒューストン氏の会話を、傍観者的に座って聞くだけになっていた。二人の話題は、バーバラが彼女自身のことについて新たに発見した事柄、そして、その事柄が彼女の不倫にどのように関係しているかについてが主だった。

バーバラはセラピストのところに通い始めており、そのセラピストは、バーバラに、不安感と自尊意識の喪失による精神的不安定を患っているのではないかと、彼女に伝えていた。流産の後、特に心的不安定が表面化していると。バーバラは彼女の人生の様々な時期に、治療が必要なレベルまで鬱状態になったことがたびたびあったと言う。

バーバラは、自分自身の状態に関して見いだされた、このようなことすべてに傷つくことはなく、むしろ喜んでいた。スティーブの目で見た限り、彼女は、「自分が何者であるか」を見いだして大喜びしているようだった。ヒューストン氏のオフィスの外でバーバラと会うと、彼女は、スティーブが言う言葉のすべてに注意を傾け、明らかになっていることすべてに関してペラペラ喋り、この数カ月なかった、暖かい笑みを彼に見せるようになっていた。そのようなバーバラの変化すべてに、スティーブは気分が悪く感じた。何もかも、こんな風になるのが遅すぎたんだよ。いまさら何だっていうんだ。

この時も、バーバラは、ヒューストン氏と、自分のイメージがいかにみすぼらしくなっていたか、その自己イメージのために浮気にのめり込んでしまったかもしれないことについて、長々とした話しに入っていた。

「あのねぇ・・・」 スティーブは、突然、その話しに割り込んだ。「ちょっとだけ口を挟ませてもらうよ。それを言い終わったら、お二人の個人的なおしゃべりに戻ってくれて構わないから。君たちのやり方からは離れて、邪魔はしないつもりだから・・・」

「・・・何を言いたいかというと、こういうこと。僕は黙ってここに座って、この話を延々と聞いてきたわけだが、少し、わけが分からなくなってきているんだよ、バーバラ。この2、3週間、君が言ってきたことを聞いていると、君は、自分のことを犠牲者だと思っているようだけど、それは本当のことじゃないの? 僕には、君が本当にこういう問題を抱えていたのか理解できない・・・少なくとも、君が浮気をする前は、君は、こんな問題を抱えているようには全然見えなかった・・・」

「・・・はっきりと分かることは、君が、毎週木曜日、実に晴れ晴れとした顔つきで、目を輝かせて、ここに来ていることだ。君は、これまでになく、今が幸せと感じているように見えるよ。・・・だが、今、そうやって幸せに感じていられるのも、そうなった、そもそもの発端は、君が他の男に会い始めることにしたことだったはずだが・・・」

「・・・君は毎日、赤子のようにすやすや眠っているんじゃないかな。賭けてもいい、そうだろう。目の下にくまなんかないのも当然だ。僕はどうかって? 薬を飲まなきゃ眠れなくなってから、ずいぶん経ちすぎて、そうじゃない状態がどうだったかすら、もう覚えていない。でも、君は、毎朝、気分さっぱりと目覚めているに違いない。今日は、自分のことについて、どんな新しいことが分かるんだろう、自分のことについてどんな素敵なことが見いだされるんだろうと、死ぬほどわくわくしながら目覚めているんじゃないかな・・・」

「・・・バーバラ、君は、このカウンセリングでのことを今はものすごく楽しんでいるよ。君は不倫を犯した。だが、その結果、今は皆に手厚く扱ってもらっている・・・」

「・・・僕のことは覚えているのかな? 僕は、君に浮気された本人だ・・・君に裏切られた男だよ、バーバラ。確かに、僕はめそめそ泣き出したりはしない・・・だが、どうして、僕は、この苦しい状態を受け止めなければならない立場の人間になってしまい、君は、自分自身を新たに発見して喜ぶ立場の人間になってしまったのかな? どう言っていいか分からないが、すべて逆さまになっているように思える。君は浮気をしたのに、僕がそれに悩まされている。・・・泣き言を言いたくないが、こんな状態は全然フェアとは言えない」


[2008/03/18] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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