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無垢の人質 第1章 (3) 

「この裏切り者のあばずれが!」

レオンは、そう呟き、娘の髪を容赦なき力で鷲づかみにし、顔を上げさせた。娘は痛みに泣き声を上げ、喘いだ。

「・・・私を放しなさい」

その娘の求めに、レオンはさらに強く髪を引っ張り、返答した。娘は、緑の瞳に、挑戦的な表情を浮かべつつも、涙を溢れさせた。その瞳を、レオンの怒りに燃える褐色の瞳が睨みつける。

「お前はわしの言うことを聞くことだ。わしは不服従が我慢できぬ。お前を懲らしめる方法はいくらでも知っている。やがてお前は、わしに許しを請うようになるだろう」

レオンは、鋭く迫力のある低音で、そう呟いた後、ようやく娘を放した。娘は恐怖に身をすくめ、できるだけレオンから遠ざかろうと引き下がり、結果、床にある皮クッションに尻餅をついた。レオンの堕天使よりも美しき顔から放射される恐ろしい決意と憎しみが、娘の記憶に刻印のように焼きついた。

レオンは、血に汚れたナイフを拾い、猫を思わせる優雅な動きで立ち上がった。娘は、レオンが高価そうな袖の生地を引き裂きながら、彼女から離れていくのを、恐ろしさに息を潜めつつ見ていた。

娘はこの男のことを知っていた。安全な隠れ家だった修道院から、剣先をかざして乱暴にわが身を引きずり出し、縛りつけ、南フランスへと連れて来た男たちが、その途上、行っていた畏敬に満ちた囁き声の会話から、この男のことを知っていた。レオン・ド・アンジェ。別名、金色のライオン。

「ただのかすり傷だ」

決して同情的ではない人質に、レオンはぶっきらぼうに伝えた。娘は、おののきつつも、長椅子と出口の間の距離を測った。私にできる?

「だが、お前の不服従は、懲らしめずに済ますわけには行かぬ」

娘は、まばたきをし、緑の眼を大きく開けて、この長身の男を凝視した。金色の長髪をストレートに垂らし、色黒の顔に異様なほど恐ろしい炎を目に浮かべている男。その熱い視線が、彼女の細く、無防備な体を這い降りていく。娘には、男の視線の熱さに抗う力がなかった。

「立て」

娘が動かずにいるのを見て、レオンは非常に落ち着いた声で言った。

「今すぐ」

レオンの声の調子に含まれる何かに、娘は、この男の言うことに拒否を試みれば、抜き差しならぬ危険な状態になると警告を発せられたように感じ、ゆっくりと体を起こし、よろけそうになりつつ立ち上がった。娘が。細身の体を、灰色の修行僧のガウンに包み、緑色の瞳で、男の肩から上をキリッと睨みつけながら、反抗的に立ちあがると同時に、レオンが再び口を開いた。

「身につけているものを脱げ」


[2008/03/18] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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