2ntブログ



報復 第6章 (7) 

その晩は、二人とも特に決まった話題もなくおしゃべりをして過ごした。バーバラの実家でキムと会った時のことについての思い出話しをして笑ったり、テレビでフットボールの試合を見て、そのアナウンサーをからかったり。キムは、スティーブが並みのアナウンサーよりフットボールに詳しいと言って褒めた。

テレビを見ながら、ある時点で、キンバリーはスティーブの方に手を伸ばし、彼の手を握った。スティーブは手を引っ込めることはしなかった。彼は純粋にこのひと時を楽しみ、同時に、あらゆる邪念を拭い去り、考えないことにしていた。彼には、このように何か楽しい時間を過ごすことは、ずいぶん長い間なかったことだったのである。

フットボールの試合が終わった後、スティーブは自分がしていたことを振り返り、この義理の妹が家に帰るよう、仕向け始めた。彼女は、高校を出たばかりで、まだ若い。自分は27歳で、彼女の姉と熾烈な離婚協議をしているところなのだ。

キンバリーは帰りたくなかった。スティーブは、キムの瞳の表情から、彼女がここに留まり、一夜をかけて、自分が成熟した女性であることを証明したがっていると感じていた。だが、彼は、キムにそれを許したいという衝動と戦った。そういうことは正しいことではないのだ。

スティーブは、キムに家に着いたら電話するよう約束させた。この豪雨の中、彼女を一人で帰らせることが気がかりだったからだ。

キムから電話が来たとき、スティーブは会話を短めに切り上げようとし続けた。もし、スティーブが開放的に彼女を受け入れて話しをしたら、キムは恐らく一晩中、電話で話しを続けたことだろう。

その夜、スティーブは久しぶりに熟睡し、翌朝、空腹を感じて目を覚ました。それまで、彼は、空腹感を感じることなど永遠にないだろうと思っていたのである。

********

「こんにちは。調子はいかが?」

「ええ、まあまあです。そちらの方は、エレーン?」

「私もまあまあ」

彼女は優しげな微笑を浮かべて答えた。ほっそりと背の高いブロンドの女性は、スティーブの頬に軽くキスをし、慎ましやかにハグをし、テーブルの反対側に腰を降ろした。

「で・・・道を踏み外した配偶者との戦争は、その後どんな感じに?」 スティーブは躊躇いがちに切り出した。

スティーブと、バーバラが不倫を行った男性の妻は、しばらく前から、情報を交換するために頻繁に会う習慣になっていた。スティーブは、もはや、レイフがバーバラと依然として接触してようが気にしなくなっていたが、エレーンの方は、そうではなかった。エレーンは、主に幼い娘のためを思い、夫婦関係を修復したいと思っていた。

スティーブは、エレーンとの友情関係がこれほど親密になったことに内心驚いていた。二人とも、あらゆる面でプラトニックな関係を維持するよう、細心の注意を払っていた。もし、何か道を踏み外すようなことがあったら、何よりエレーンには失うものが多い。

「きわめて順調ね」

エレーンは、あまり期待せずにメニューを見ながら答えた。彼女は、興味を捉えるような、何か新しくて、ワクワクさせるようなメニューが加わっていたらいいのにと思っていた。

彼女は何気なく言った。

「ドゥーファスは、もう丸二ヶ月間、バービー人形ちゃんに電話をしていないわ・・・それに彼女の方も電話もメールも一切しようとしてきてないわね」

「本当?」 スティーブは、半信半疑で問い返した。

「ええ、きっぱり、そう言えるわ。家のEメールに関しては、すべてのアカウントに関して、夫のパスワードを確保しているし、夫は毎晩、家に帰ると私に携帯電話を見せているから。それに、私もオンラインで電話の使用履歴をチェックして、変な番号から電話が来ていないか確かめているの。それに、帰宅は私の方が早いから、彼が帰る前に郵便物をチェックして何も来ていないことを確かめているわ。さらに、ドゥーファスの職場にいる情報管理の人にも、同意の上で、すべてのメールの送受信を見せてもらっているのよ」

エレーンは、自慢げに瞳を輝かせてスティーブを見上げた。

「毎月1日に差出人が書かれていない封筒に100ドル札が入れられて、送られて来るんだから、女の子はいろんなことをしちゃうものよ。分かるでしょう?」

スティーブは声に出さず笑った。「あらゆる回路をカバーしてるわけだ」

「もう、完全に! 私は、もう、夫のことを信用していないし、夫も償いのためにたくさんしなければならないことを抱えているわ。彼がどこにいるか、誰と一緒か、そこで何をしているか、私が正確につかめないような事態が生じたら、即刻、彼は、バーバラが受けたような書類の束を受け取ることになっているの。彼は、そういうことになったら、私がすぐに家を出て行ってしまうんじゃないかと、ビクビクしているわ。今のところ、そういう状態で私は大満足」

スティーブは笑顔を見せていたが、気持ちは入っていなかった。エレーンの言葉を聞いていると、彼女の場合は、夫婦関係が続くチャンスがありそうに思えた。だが、自分の場合は、そのチャンスは一切ない。


[2008/04/21] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する