あの店に入ったのは、あの種のビデオのせいだったのだ。後になってから、すべてをじっくり見た時、彼は、あれがそうだったのだと確信した。
月曜の夜にキムが来てからというもの、スティーブは、ずっとピリピリしていた・・・そして、「老いぼれヤギのようにスケベ」(
参考)な気分になっていた。これは彼の好きな叔父さんがよく使っていた言い回しだったが、急に、その意味がしっくり腑に落ちた感じだった。これにはスティーブ自身、驚いていた。彼は、6月に妻が他の男の腕に抱かれていたのを見たとき以来、性的に興奮したことがなかったのだった。
金曜日の晩だった。スティーブは、特に何も考えずに、アダルト・ショップに立ち寄り、3本の新作ビデオを手にそそくさと店を出たのだった。そのビデオは、「かろうじて合法的」(
参考)とうたったアマチュアの女の子を出し物にしていた。もし、あの時、スティーブが落ち着いて自分の行動を考えたら、彼は、どうして自分が、店のあのセクションに興味を惹かれたのか、正確に理解したことだろう。
彼が家に帰ってすぐに、ドアのチャイムがなった。着古したジーンズに着替えることはできていたが、上のスウェット・シャツには着替えの途中で、それを頭から被ったまま玄関のドアを開けた。開けた先で、狼の口笛(
参考)が大きく鳴った。キンバリーだった。
「こんにちは。幼い私のために、その素敵なカラダを隠す必要なんかないわよ」
スティーブは少し顔を赤らめ、スウェット・シャツの裾を降ろし、整えた。
「やあ、キンバリー。どうした? いかがわしい場所に遊びに来たのかな?」
キムは顔を輝かせ、にっこり微笑んだ。
「えっと、まあ・・・一緒に遊んでくれそうな、逞しい男を捜してるところなの」 と、わざと媚を作って答えた。
スティーブはうろたえながら答えた。
「そうか・・・うーん・・・君のために、何本か電話をかけてあげられると思うけど。職場の独身男性の中には、女の子とディナーを食べたり、映画を見に行ったりしたい気分になってるのがいるかもしれないから・・・」
キムは笑い出した。彼女は、スティーブが、半分興奮し、半分当惑しているのが見て取れた。もっと詳しく観察すると、半分当惑の部分は、残りの興奮部分に比べるとずっと小さそうだと分かった。キムは、獲物を見つけた獣のような笑みを浮かべた。雌ライオンというものは、獲物が弱っていて、降参しそうになっているかどうか、ちゃんと見極めることができるものなのだ。
何も答えず、キムはスティーブの脇をするりと通り過ぎ、何気なさを装って、玄関ロビーを歩き、キッチンへ通じる廊下を進んだ。はっきりと聞こえるようにして、クンクンと鼻を鳴らした。
「お腹がすいたわ。何をご馳走してくれる?」
スティーブは、自分が夕食に何を食べようと思っていたんだろうとの思索へと、一瞬、気を逸らされた。そのため、キムが近寄ってきて、彼に抱きつくのを避けることができなかった。キムは抱きつくと同時にキスを仕掛けた。義理の兄と行う挨拶代わりのキスにしては長すぎるキスだった。そして、それを受けて、スティーブも首の回りに絡みつくキムの両腕を解きたいとは思わなくなってしまう。それでも彼は、自分を制するように、彼女の腕を解いた。
無理やり腕を振り払われても、キムはまったく気落ちしなかった。
「ステーキがいいかな? それにベイクト・ポテト・・・ブロッコリーをつけて?」
スティーブの提案にキムは頷き、甘えるような声を出した。
「うーん、美味しそう」
スティーブは、また、すがり付いてキスを仕掛けようとするキムを、今回は、かろうじてかわすことができた。
キムは、アハハと笑いながら、高いスツールに腰を降ろし、スティーブが、冷蔵庫からステーキ肉を取り出し、電子レンジにポテトを2、3個入れて、「ベイク」にセットするのを見た。
彼が食事の支度をする間、二人は、楽しく、気取りのまったくないおしゃべりをした。フライパンの中、ステーキがジリジリと音を立てる間も、その後、二人揃って食べる間も、バーバラのことはまったく話題にならなかった。
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