モール内をドナと一緒に手をつないで歩いたが、シューズ・ショップの前に差し掛かると、ドナが優しく僕の手を引き、ヒール高12センチで、足首にストラップで留めるデザインの皮製のハイヒールを手に取った。そして店員に僕の足のサイズのものがあるかと尋ねた。店員の女の子は、ドナの足元を見ながら、当惑した顔を見せつつも、後ろからそのサイズのものを取り出した。ドナは、僕を椅子に腰掛けさせ、店員に言った。
「彼に、そのヒールを履かせて見せてくれる?」
女の子の店員は僕の姿をまじまじと見て、シャツの下、ブラジャーのラインが透けて見えているのに気がついたようだった。彼女は、僕のテニス・シューズの靴紐を解き、それを脱がしたが、僕の足先がストッキングのナイロンに包まれているのを見た。
彼女は何も言わず、僕の足にハイヒールを履かせ、ストラップを結びつけ、立ち上がった。そして、可愛らしい口元にかすかに笑みを浮かべつつ、僕に手を差し出して、立ち上がるのを手伝ってくれた。僕は、彼女は、ハイヒールを履いた僕が転ぶのを見たがっていたと思っている。
僕はしっかり立ち、店の奥から入り口まで、ジェニーに教わったとおりにヒップを揺らしながら、優雅に歩いて見せた。硬板のフロアーにハイヒールの音がコツコツ鳴り響いた。鏡があったので、そこに映る自分の姿を見てみた。やはり、ヒールのおかげで、ふくらはぎからヒップにかけて、キュッと押し上げられて感じになっていて、たとえ男物のジーンズを履いていても、明らかに女性的な姿に変わっていた。
ドナは、パチパチと拍手をして、喝采をあげた。
「すごくゴージャス! それを履いたままで店を出ることにしましょう!」
そう言いながら僕の元の靴を箱にしまってしまった。
そして僕たちは、店員に靴の支払いをし、そのショップを後にしたのだった。
店の外に出ると途端に、僕は周囲の目を惹きつけ始めた。モールの中をコツコツと音を鳴らせて歩いているので仕方がない。
僕は立ち止まり、ドナを振り返った。
「ドナ。もし、このままこれを続けるなら、どうしてもかつらが必要だよ。それにどこかで化粧をする必要もある。男か女かどっちつかずの服装のまま、変な目でこれ以上見られるのは耐え切れないよ」
ドナはにっこり笑い、2軒ほど先にあるお店を指差した。かつらをディスプレーしている。
早速、その店に入ると、奥から男性が一人歩いてきた。僕はこんな格好で他の男と対面しなければならないと知り、恐怖を感じた。
だが心配する必要はなかった。彼は、僕に向かって、大丈夫と言わんばかりに手を振って見せ、その後、ぴたりと手の動きを止めると同時に、僕の頭を指差した。
「ちょっと当てさせてくれる?・・・うーむ・・・ブロンドでしょ?」
心が篭った言い方でそう言い、問うような表情で、剃り整えた眉毛を上げて見せた。