ドナはにやりと笑って、「とりあえず、選んでみると・・・」と言って、洗練されたスタイルのショートなブロンドのかつらを取り上げた。「これなんか、どうかしら?」
「素敵な選択ね! あなた、テレビの『コールドケース』(
参考)のファンなんじゃない?」
彼はドナからかつらを受け取り、僕の頭に装着し、ハミングしながら、あちこち軽く触れ、髪の房をあれこれ動かした。
「頭を振って見せてくれる?」
そう言う店員に促されて、僕は言う通りにしていた。
彼は、両手を上げて頬に寄せ、手のひらをあごの下で触れる格好をした。その両手の指先が左右の頬に触れている。
「まあ、すごくゴージャス!」
店員は、先にドナが僕の靴について言ったのと同じ言葉を叫んだ。
「ねえ? ちょっとお化粧ができるような鏡が置いてあるところ貸してくれないかしら?」 とドナは、可愛い声で店員に尋ねた。
「お二人のような素敵なレディのためなら、喜んで! あっ、でも、・・・もっといいところがあるかも・・・」
彼はそう言いながら、通路の向こう側を指差した。前腕をまっすぐに上げ、手首を曲げて示している。僕とドナは、彼が指差す方へ視線を向けた。そこには、グラマー写真スタジオ(
参考)があって、店員たちが、忙しそうに、撮影を控えている女の子たちに化粧をしていた。
「あ、いやあ、こんな服装じゃ・・・」と僕が言うと、彼は「それなら、・・・」と言って、写真スタジオから2軒先に行ったスタイリッシュな女性服を売っている店を指差した。
ドナが眼を輝かせ、かつらの代金を払い、店員の頬にチュッとキスをした。
「まあ、まあ。でも、もう一人の人にはしてもらえないのかしら?」
ドナは、アハハと笑って、腰に手をあてながら僕の方を見た。
「どうなの? ミス・ビッキー?」
僕は、どうしてあんなことをしたのか自分でも分からないが、この女性的な店員に体を寄せ、もう片方の頬にキスをし、「ありがとう」と呟いたのだった。恥ずかしさで顔が真っ赤になった。
「まあ、可愛い人! いいのよ、ありがとうなんて言わなくても」
彼は、向きを変えて店を出て行く僕たちに、そう言い、僕にウインクをして見せた。僕は耳まで真っ赤にさせながら、ドナの方を向き、ちょっと立ち止まった。
「こんなの全然、面白いことじゃないよ!」
「あら、あなた、分からないの? とても面白いじゃない。これもそれも、全部、お遊びなんだから。性的なことも、変態じみたことも関係ないの。ただのジョーク。悪意も何もないわ。ただ、ちょっとだけあなたを当惑させて、もっと楽しいものにしたいだけ。さあ、行きましょう? 最初に、お化粧をしてもらって、それから写真のための服を買いに行きましょう? いいわね? ミス・ビッキー?」
ドナは、そう言って僕の手を掴み、ぐいぐい引っ張るようにしてグラマー写真の店に連れて行ったのだった。