ドナは続けた。
「私たち、2、3軒先のお店に行ってドレスを買ってこようと思うの。今、支払いを済ませて、後で撮影の時に戻ってくることにしても構わないかしら?」
「ええ、もちろん」
店員は僕たちをレジに連れて行き、ドナは支払いを済ませた。
「それではお待ちしておりますね。素敵なドレスが見つかると良いですね。あの素晴らしい顔に良くマッチしたドレスが」
デビーは、店を出て行く僕たちの背に声をかけた。
写真スタジオを出て、衣服店へ行くまでの短い距離だったが、僕は数回、すれ違う人々に振り返られた。何かセクシーでフリルのついたドレスを求めて入ったが、ドナは、ピンク色のかわいいドレスを選んだ。実質上、シースルーと言ってよいドレスだった。それを見て僕は息を飲んだ。とてもセクシーで、驚くほど薄い。それを身にまとった自分の姿を想像し、待ちきれなくなった僕は、ドナを引きずるようにして店の奥の試着室へと向かった。
ドナの手からドレスを取り、試着室に入り、ドアの鍵をかけた。注意深くTシャツを脱ぐ。せっかくセットした髪の毛を乱さないように、気を使って頭から脱ぎ去る。脱いだTシャツを脇に放り投げ、椅子に腰を降ろして、ハイヒールの止め具を外し、一度、ヒールを脱いだ。それから立ち上がり、ストッキングを履いた脚からジーンズを滑らせて降ろし、足を蹴るようにして脱ぎ捨てた。
ほとんど息を止めるようにして、ドレスのボタンを外し、頭からかぶって着てみた。ドレスのさらさらとした生地が、ブラジャーを撫で、次に、ガーターそしてパンティを滑り降り、最後に両太ももを優しく擦り撫でる時の、きわめて女性的で甘美な感触を味わった。スカートが舞うように動くことにより、かすかに空気が動き、パンティに覆われたペニスに繊細な刺激を与えるのを感じ、ゾクゾクと身震いした。
だが、その時、僕は、背中のボタンを留めることができないことに気がついたのだった。ドレスは胸元は大きく割れているが、背中は首の付け根まであって、そこを留めるボタンは小さく、いくつもあったのである。何度か試みたが、どうしても手が届かなかった。僕は、完成した姿になってから試着室を出て、外で待っているドナを僕の美しい姿で驚かしたかったのだが、どうやら、それはできないのだった。
仕方なく僕は再び椅子に座り、ハイヒールを履きなおし、留め具を付け直して立ち上がった。それからドアをちょっとだけ開けて、ドナに声をかけた。
「ちょっと背中を手伝って!」
ドナは、驚いた風に口を開けた。どうしても笑いを押さえ切れない様子で、試着室の中に入ってきた。
「今の可愛い言葉、どれだけ女の子っぽかったか、あなたには分からないかもね」
僕は、何のことか分からず、聞きなおした。
「どれだけの女たちが、どれだけの回数、今あなたが言ったことと同じことを、パートナーに頼んできているか知っている?」
ドナはにんまり笑顔のまま、僕を後ろ向きにさせ、小さなボタンを留め始めた。
僕はドナが言ったことの意味を考え、僕自身に起きつつあることを思い、驚いていた。普通なら気づかない、ごく些細な、日常的なことについてすら、僕は女性的な行動や習慣をするように強いられているのだ。
ボタンを留め終えたドナは、僕を再び前向きにさせた。彼女は、その途端に口を大きく開け、眼をまん丸にさせた顔になった。
「ああ、ビクトリア! 本当に言葉にできないわ!」