僕はディアドラに対して少し軽薄になっていた。
「え、そうすると、男との付き合いのことも全部妹さんに喋っちまうの?」
ディアドラは僕の言葉に食って掛かった。目を輝かせたが、今までとは違った種類の光が輝いていた。それまでは見たことがないような、怒りに近い目の表情だった。
「アンドリュー、私は男付き合いなどしてないわ! 遊びの付き合いもなし! ドニーにも私の恋愛について話すことはないわ。なぜなら、恋愛をしてないから。そういうことをする時間がないの」
ディアドラは言葉を吐きながら、少しずつ落ち着いていったようだった。僕は前より強く彼女を抱きしめた。彼女がリラックスしていくのが感じられた。
「ごめん、ディアドラ。多分、僕は今は少し無用心な常態になっているのだと思う。いま二人でこうしていること。このことを君が男と女の間柄とはみなしていないのは分かっている。恋愛の関係なんかじゃありえないんだ。でも、僕にはそういう関係にあるように感じられてしまって・・・」
「ディ・ディ・・・」
ディアドラが呟くのが聞こえた。
「ディ・ディ?」
「私に近い人たちは私のことをそう呼ぶわ」
「誰がディ・ディと呼ぶの?」
「ママとパパ、それに妹のドニー。私には近い間柄の人はあまりいないの」
ディアドラは顔を僕の肩に擦り付けるようにした。子猫が足にすがりつくような仕草で。素敵な感覚だった。
「僕もディ・ディと呼んでもいいかな?」
「ええ、呼んで」
彼女は僕を見ていなかった。顔を僕の肩に埋めたままだった。
僕は手を彼女のあごに添え、上を向かせた。二人の顔が並ぶ。
「ありがとう、ディ・ディ」
そう言って、彼女にキスをした。感謝の気持ちを込め、ソフトに優しくキスをした。ばかばかしいことを言ってるのは分かる。単にあだ名で呼ぶのを許してくれただけなのだから、たいしたことじゃない。でも、僕にとっては、何か大事な垣根を越えたように思えたのだった。いま僕のそばにいるこの女性、友達のいない女性が僕に友達になって欲しいと頼んでいる。僕はもっと近い存在になりたかった。でも、どんな旅でも、最初の一歩から始まるものだ。