アンドリューに家族のことについて訊いた。彼はオハイオの小さな町の出身で、父親は亡くなったが、母親はまだ生きているらしい。兄弟姉妹は一人ずついて、二人とも専門職について、中西部の都市で暮らしている。彼は、親戚とは、誰とも親しくしていないらしい。
彼の恋愛関係についても知りたかった。何だかんだ言っても、私の方は、まったく恋愛関係には縁がないことを、はっきり伝えてたわけだから、彼の方についても教えて欲しいと思っていた。ただ、私がそれを知りたがっていることを、あまりあからさまにしたくはなかった。アンドリューの現在の恋愛関係が、何らかの形で私に影響を与えるように感じ取られることは避けたかった。実際、彼がどういう恋愛生活を送っていようが私には関係のないことなのだから。
でも、本当は、それは間違い。本当のところ、これは私にとって重要な問題なのだ。どうしても知りたい。多分、私は、自分の競争相手がどんな女性なのか知りたがっていたのだと思う。男女交際は避ける主義なのは変わっていなかったけれど。
アンドリューは、この点に関して、とてもオープンだった。
「2、3回は、わりと真剣な交際になったこともあるんだ。今は、真剣に付き合おうと思っている人は誰もいない。あ、もちろん、あなたとのことは別にしてだよ・・・」
(彼がこう言った時、体中が甘美に疼くのを感じた)
「・・・どの女性ともうまく行かなかったのは、結局、僕が、たいていの女性ならば僕に与える気にならないようなものを、捜し求めているからだと思う」
この言葉には興味を引かれた。
「捜し求めているけど、与えられなかったものって・・・それは何?」
「僕は、相手の女性には、平等でオープンな関係を求める人でいて欲しいんだ。僕が求めている男女関係とは、両者とも、関係が良好に続くようにする責任を持っている関係。オープンに語り合うことが必要だと思っている。それに、僕のことを死ぬほど退屈に感じてしまうような女性は困るし、僕の方も死ぬほど退屈に感じてしまうような女性は困る。残念だけど、そういう女性を見つけるのは簡単じゃない。僕が興味をもつことは、多くの人が死ぬほど退屈だと感じるようなことばかりだから。相手の女性には、少なくとも知的な面で僕と平等であって欲しいと思っている。僕が理想としている女性は、多分、僕より賢い人だと思う。ちゃんと考え、自分の言葉で僕に意見を言ってくれるような人。そういう人が欲しいんだ・・・」
「・・・嫌なことは、相手の人が、僕が言ったことにせよ言わなかったことにせよ、あるいは、僕がしたことにせよ、しなかったことにせよ、それについて鬱々と考え込んでいたことを、後になって知ること。その人を傷つけるようなことを僕がしたり、しなかったり、言ったり、言わなかったりしたとして、そういう場合は、すぐにそのことを教えて欲しいと思っている。そうしたら、早速、その問題に取り組んで、解決できると思うから・・・」
「前回、ある女性との交際が破綻したのはどうしてかと言うと、その人が、一ヶ月以上に渡って、僕のことに腹を立てていて、どうしてそうだったのか、僕に全然、知らせてくれていなかったからなんだ。今は、もう、気にしなくなっているけれど、今になっても、彼女が怒っていた理由は分からない。言ってくれればよいのに。もちろん、訊いてみたさ。でも彼女は、『言葉に出さなくても、どこが間違っていたか分かるはず』という態度だった。問題の核心は、『コミュニケーション不全』だと思っている。どんな男女も、この問題があったら交際は続けることができない。僕は、できるだけ痛みが少ないように言葉を選んで、彼女に交際を続けられないと話した。でも別れなければならなかったのは事実。コミュニケーションなしでは、先がないと思っていたから・・・」
「・・・多分、僕は強い女性が好きなんだろうと思う。僕が期待通りにならない時に、ちゃんと言ってくれる女性。日々の生活で、二人の関係を良好にすべく努力すべきだと主張する女性。互いの人生で、二人が交際することが最も重要なことだと分かり合っている、そういうカップルであるべきだと思っているような女性・・・」
そこまで言って彼は、少し弱気の表情を顔に浮かべた。
「・・・多分、僕が女性と付き合えない理由のもう一つは、僕の話しがしょっちゅう脇道に逸れてしまうことがあるかもしれない」