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報復 第8章 (4) 

バーバラが、前より落ち着いた口調で話しを始めた。

「あなたは、キムとセックスしなくてもよかったはずだわ。父のところにビデオを持ってくるだけでもよかったはず。それで充分だったはずだわ」

スティーブは、頷いて、同意を示した。苦々しげに言葉を発した。

「それは、その通りだ。君の言う通りだよ。そうするだけで良かったのかも知れない。ただ、君は、この件で、何かもっと失うものがあるべきだったのだよ。僕は妻を失った。キンバリーは清純さを失った。そして今は・・・少なくとも、この2週間は・・・君は自分の夫を妹に奪われ、失った・・・これで、みんな平等になったのさ。誰もが傷ついた。そして、誰もが勝者でない」

バーバラは、スティーブを見つめた。どうしてこんな残酷なことが言えるのか、皆目分からなかった。ふと、頭の中に、ある思いがよぎった。スティーブは、自分がレイフと一緒にいるところを捕まえる前は、このような無情なことが言える人だったろうか、と。その考えは、バーバラには不愉快だった。

「それに・・・」 と、不意にスティーブは話しを続けだした。「キムとのことでは、セックスは最も小さな部分にすぎない・・・彼女の体にペニスを突っ込んだ男たちがずらっと行列をなしていて、そこに僕が加わったにすぎないんだ。それに、僕にとっては、彼女とセックスをしたのは、この今の状態から抜け出るための方法だったから・・・」

バーバラは、意味が分からないと言わんばかりの顔をしてスティーブを見つめた。だが、彼に問いかけることはしなかった。

「分からないかな、バーバラ?」 スティーブは穏やかな口調で続けた。「あのビデオは全部見たのかな?」

バーバラの顔がとたんにピンク色に染まった。

「一本だけ」

「大丈夫、それで充分だよ。ともかく、君の妹が、ありとあらゆるやり方で、あそこに映っていた男たち全員とやりまくるのを見たんだよね。そうだろ?」

バーバラは頷いた。彼女は、ビデオのことを思い出し、恥ずかしさを感じたし、またスティーブの言い表し方によっても、恥ずかしさを感じた。だが、バーバラは、スティーブが使った言葉に文句は言わなかった。そうすることで、いっそう恥ずかしさを拡大させてしまうことを避けたかったから。

「君はキムが男たち全員と交わるのを見た。時には、一人ずつ、時には集団で・・・そして、最初から最後まで、男たちは誰もが『ナマ』のままでやっていたよね。そうだろ?」

バーバラは、いっそう顔を赤らめた。素早く、こくりと頷く。

「僕は同じようにしなかったと思ってるかな? 僕はコンドームの感触が嫌いなのは知ってるよね?」

バーバラはまたもこくりと頷いた。スティーブは返事を待っていたが、バーバラは何も言わなかった。

「分からないかな、バーバラ? キンバリーは、安全なセックスについて何も考えていなかった。多分、彼女は、人類が知っているありとあらゆる性感染症を移されてしまってるだろう・・・そして、彼女は、そのすべてを僕にも移した」

スティーブは、またもバーバラの返事を待った。

「バーバラ・・・バーバラ・・・」スティーブは咎めるような口調になった。「君は、僕の体質については知ってるはずだよ・・・僕はペニシリンにも、ペニシリンから生成されたすべての薬品に対しても強度のアレルギーがあるんだ。どんな医者も、いま現在、僕の体の中で激しく増殖しているものを退治できないだろうと、僕は思っているよ。かなり真剣にね・・・それに、もしキムがHIV陽性だったら、もし彼女が僕にエイズを移したとしたら・・・その場合は、希望は完全に望めない。そうだよね?」

バーバラは、恐怖にひきつった顔で夫を見た。彼女は忘れていた。スティーブは、子供の頃、かなり軽い病気だったが、医者にペニシリンを注射され、死に掛かったことがあったのだった。それを今バーバラは思い出していた。

「どうして・・・あんなことをする必要なんてなかったのに・・・」 バーバラは小声で囁いた。

スティーブはうんざりした様子で、肩をすくめた。

「どうしてって、しょっちゅう心を痛めていることにうんざりしてしまったからだよ、バーバラ。君が僕を自由にさせようとしないからだよ。僕は逃れることもできなければ、癒しを始めることすらできない。君は、常時、僕の心の前面、かつ中心部に苦痛を置き続けてきたんだよ・・・」

「・・・こういうことを言って何かの慰めになるか分からないけれど、今も、そんなふうに感じているかどうかはっきりしなくなっているよ。キムとセックスをしなければ良かったと思っている・・・やってしまったことを恥に感じているよ。でも、あの時は、本当に気持ちが重くなっていて、他に抜け出る道が見えていなかったんだ」

そこまで言い終え、スティーブは座りなおして、姿勢を正し、カウンセラーに視線を向けた。ヒューストン氏は、バーバラが見せたのと同じショックに満ちた表情で、スティーブと視線を合わせた。

スティーブは腰を上げ、ゆっくりとドアへと進んだ。ドアを開け、外に出る。だが、ドアを閉める前に、もう一度、ヒューストン氏の方を振り返った。

「ヒューストンさん、ずいぶん前になると思いますが、僕が言ったことがありましたよね。僕は自殺についてちょっと考えがあると言ったと思います。聞いたはずですよ。そう言った時、あなたは何かメモを書いたから・・・まあ、自分でも、妻の妹とセックスをすることで、自殺をしたことになるかどうか分かっていないんですが、それでも、キムと一緒にいた、あの時は、どうでもいいやという気持ちになっていたのですよ・・・」

そう言った後、彼は、バーバラに視線を向けた。

「・・・バーバラ? もう、遅いんだよ。一応、残念に思ってるとだけは言わせてもらうよ」

スティーブは、優しく、しかし、しっかりとドアを閉めた。そして歩き始めた。

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[2008/11/28] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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