家に着き、自転車を家の横に置いた。これなら、後でグラフ先生の家に行くとき、音を立てずに済む。
両親はすでに帰宅していた。お父さんはテレビでニュースを見ていて、お母さんはテーブルについていた。俺は手を洗って、食卓に着いた。夕食を食べながら、その日にあったことをおしゃべりし、食事後、俺は自分の部屋に引き下がった。
早速、パソコンをつけて、メールをチェックした。案の定、先生からのメールが来ていた。
「本当にお願いなのよ。家に来るのはやめて。夫がいるのよ。危険すぎるの。夫にばれたら、何をするか分からないわ。二人とも大変なことになるのよ。分かってるの? お願いだから、今回はやめにして」
俺は素早く返事を書いた。
「残念だが、グラフ先生、今夜も、お前は俺の指示を守らなければならないのだよ。先生には選択の余地はないのだよ。守らなかったら、先生が去年の夏、誰とやったか、今年の夏もどんなことをしたか、みんなに知れ渡ることになるんだ。リビングの明かりをつけて待っていることだな。これが最後だ。命令を守るんだぞ。ご主人様より」
メールを送信した後、シャワーを浴びにいった。ゆっくり時間をかけてシャワーを浴びたが、今夜のことを想像してしまい、なかなか勃起が収まらない。シャワーを終え、部屋に戻って、着替えをし、そのままちょっとベッドに横になった。
ふと顔を上げて時計を見たら、かなり時間が過ぎているのに気がついた。途中、アダルト・ストアに立ち寄る予定だったので、素早く起き上がり、こっそりと家から外に出た。自転車に乗り、アダルトショップに向かう。
ショップの前につき、あたりを見回し、誰も見ていないことを確かめ、素早く店内に入った。中には、男が数名と女が二人ほどいて、品物を見ていた。いろんな商品があってびっくりしたが、ともかく目的のものを捜すことにする。
最初のアイテムは、ビーズが数珠繋ぎになっているヤツだ。ビーズは一番大きなサイズのを選んだ。直径2センチ半はあるやつで、その銀色の球が7つほどナイロンの紐で数珠繋ぎになっている。
次の商品棚では、いろんなスタイルのがあって迷ってしまったが、ようやく望んでいたものを見つけた。電動式の道具で、「遠距離恋愛の彼氏」と名付けてある。リモコン式の卵型バイブだ。箱の裏には「どんなケータイにも合うよう容易にプログラム可能」とか「世界中のどこにいても彼女をイカせられる」と書いてある。俺はにんまり笑いながらレジに行き、支払いを済ませて、外に出た。
自転車に乗り、グラフ先生の家に向かった。この日も、先生の家の隣の通りに行き、ステファニーの相手の男の家の横に止めた。今日は、家じゅう真っ暗で静かだったので、誰もいないんだろう。グラフ先生の家には明かりが煌々とついていた。
早速、買ったばかりのリモコン・バイブを開け、指示に従って操作した。確かに箱に書いてあった通り、簡単にケータイにコードを入力できた。やっておかなくてはいけないことで残っているのは、後でグラフ先生のケータイを見つけ、そいつに同じコードを入力することだけだ。リモコン部分を取り出し、俺のケータイの充電口に差し込んでみた。こうやって発信するわけだ。パッケージの中には、黒ベルベッドの箱があった。そいつの中に銀色の卵型バイブを入れ、他のものもしまった。後は、ひたすら時間が来るのを待つだけだ。
時間が止まっているように長く感じられた。やがて近所の家々の明かりがひとつひとつ消え始めた。かなり夜も更けてきている。すっかり明かりが消えた家々も多くなってきた。俺は、家の間の茂みにずっと身を潜め続けた。
じっとしながら、あのクラブのことを考えていた。あのクラブの会員になって、グラフ先生をあそこに連れ込むことができないだろうか? だがどうやって金を作ったらよいんだ?
俺は、グラフ先生が、あのクラブのステージの上、椅子に拘束されているのを想像していた。両脚をぱっくり広げて縛り付けられ、両手首は頭の上に吊るされている。そんな姿のグラフ先生。そんなことを想像していたら、ズボンの中、勃起が猛り狂っていた。痛いほどだ。
グラフ先生の家に注意を戻した。いつの間にか、1階部分の明かりが消えていた。今は、一階のところは真っ暗になっている。もうすぐ、グラフ先生の、あの熟れた体を味わえると思い、心臓がどきどきし始めた。
2階の方をじっと見続ける。やがて、一つ明かりが消えた。そしてまた一つ。最後の一箇所だけ、まだ明かりがついている。そこだけを睨みつけながら、ひたすら待った。だが、なかなか消えない。辛抱強く待ち続けた。体中の血管が狂ったように脈打つのを感じた。「早く消えろ! 早く消えろ! 早く消えろ!」と小声で呟いていた。
ふと、後ろの方から車が一台走ってきた。振り向くと、パトカーだった。ちくしょう、警察に通報したのか、と思った。もう一度、家の方を見た。そして、最後の明かりが、ぷつんと音を立てるように消えるのを見た。
もう一度、振り返ったが、さっきのパトカーはただ巡視をしていただけで、あれが走り去った後は、何も来ない。他の車も通行人もいない。自転車のところに戻り、それを引っ張って、家の間の陰へと向かった。それから、もう一度、辺りに誰もいないことを確かめ、その後、自転車に乗り。ゆっくりとペダルを漕ぎ始めた。
通りに出て、グラフ先生の家の前を通り過ぎ、3軒ほど先まで走った。やはりグラフ先生の家は真っ暗になっている。先生の隣の家の庭に何本か樹が立っていて、陰ができてるのを見た。そこへと自転車を押して行き、静かに自転車を倒し、俺も地面に腰を降ろした。後は、リビングの明かりが灯るのを待つだけだ。
かなり遅い時間になっていた。いつ点くとも知れない明かりが点くのを待つのは苦痛以外の何物でもなかった。「さっさと点けよ。もう、旦那は寝たんだろ?」 そう独り言を言いながら待ち続けた。気分をリラックスさせようと目を閉じて、じっと黙想してみた。また、あのクラブのことが頭に浮かんでくる。
何分経っただろう。おもむろに目を開けた。そして、リビングの明かりが点くのが見えたのだった。