【私は、トランスジェンダーのお話を集めたアーカイブからニューズグループに投稿された、あるストーリーを読んで、この話を書くインスピレーションを得ました。そのストーリーは、確か「ビッキー」というタイトルだったと思いますが、実際にはトランスジェンダーの話ではありません。正直、美人とはいえない、とある女性と一緒に働いている男性の話でした。その女性が美しい女性に変身した後、二人は関係を持つのでした。このストーリーには、トランスジェンダーのアーカイブにのるに値する、ちょっとしたフェチがありましたが、それでも私はこのストーリーが気に入りました。そして、実際に(身体的に)女性を美人に変えて、話しを作為的にしてしまうのを避けつつ、話しを進めることができないか、と考え始めたのです。 deirdreより】
「Fashion ファッション」 by deirdre
「あれ、誰だったの?」
「誰のこと?」
マーサは、ちょっとだけ無邪気すぎる口調で問い返した。彼女は僕が誰のことを言ったのか知っていた。
「ランチの時、リードの店で一緒にいた女の人だよ」
「ああ、フェイスのことね」 マーサが笑い顔を隠すのを見た。「彼女のこと、魅力的だと思った?」
このフェイスって娘は、それはもうびっくりの女の人だった。モデルか、映画スターなんかになれるに違いない。彼女自身がなりたいと思えばの話だが。
「彼女とデートしたいと思っているなら、私に優しくしなきゃダメよ」 マーサは、にやりと笑った。
「例えば、彼女が僕とデートするように仕向けられるということ? 君が?」
「あら、どうして私にできないと思うのよ?」
僕はマーサの顔に浮かぶ表情を見ながら、しばし沈黙してしまった。マーサが、こういう難題に取り組むのが好きなのは確かだ。僕は、また、ちょっと黙って考え、そして言った。
「彼女、この僕と一緒にデートに出ると、君はそう思っているんだね?」
「もちろん、だってあなたは私の友達だもの・・・デートの手はずが整ったら、教えるわ」
マーサのために僕は、その夜を台無しにしてしまった。彼女がうまく行くか考えて、何もできなかったからである。
ともかく、そういうわけで僕はフェイスと会うようになった。
「じゃ、あなたはマーサと同じ職場なのね?」
僕はいまだ、何か興奮状態になったままだった。目の前にフェイスがいる。レストランの中、テーブルを挟んで真正面に座っているのだ。マーサは約束したことをすべて行ってくれて、この「ブラインド・デート」を設定してくれたのだった。
「ああ、そうだよ。マーサは3年前に、うちの会社に就職したんだ」
「彼女、あなたのこと、良い人だと言ってたわ」
フェイスのことをまじまじと見つめた。・・・僕は良い人でいるべきなのか?・・・「多分、マーサは、僕について、すべてを知ってるわけじゃないんだとおもうけど」
フェイスは、くすくす笑った。「いいわ。でも、どんな秘密をマーサに隠し続けてるのかしら?」
「僕の邪悪な側面だけ」
「私にも、それを隠し続けるつもり?」
「僕の邪悪な側面には注意したほうがいいよ。僕も、そいつをうまく押さえ込んでおくことができなくなるかもしれないし」
僕は、僕のきわどい言葉を上手にかわすフェイスを見つめていた。本当に美人だ。こういう雰囲気がとても気に入った。
みなさんは、こんなのはうまく行くはずがないと思うかもしれない。あるいは、2回目のデートが終わる頃には、僕には彼女は持ちこたえられないと気づくだろうと思うかもしれない。また、あるいは、フェイスは、次のデートのチャンスすら与えないんじゃないかと思うかもしれない。
だけど、実際は、3週間のうちに僕たちは同棲を始めていて、その2ヵ月後には結婚したのである。