本当に、フェイスは美しかった。一緒にハネムーンを過ごしたハワイのビーチでのビキニ姿のフェイス。ホテルの部屋に戻り、日焼けの肌を露わに、全裸になったフェイス。旅行中、谷間を飛行機で飛んでいた時の、ショートパンツとホールター姿(
参考)のフェイス。そのような彼女の姿を毎日、目にできるなら、いつでも仕事を辞めて、ホノルルに引っ越しても良いとさえ思った。でも、旅行から帰ってきた後も、フェイスは同じく美しく、僕は、毎晩、仕事から帰って彼女に会う、その瞬間のために生きているように思っていた。
「そうよ。ここで、彼、初めてあなたのことを見たのよ」
僕とマーサは、フェイスと一緒にランチを食べようと、リードのお店に来ていた。フェイスは、僕が彼女を見た時の話しを、それまで聞いたことがなかった。興味を持ってる様子だった。
「見ず知らずの女に釘付けになったの? でも、マーサは、ブラインド・デートを考えたのはマーサ自身だって私に言ったのよ!」
「罠に嵌められたのさ。うーん、でも、バレた以上、僕たち離婚して、それぞれの人生を歩んだ方が良いかも」
「いいえ、あなたは私を押し付けられたのよ」とフェイスは言い、それからマーサに向かって、「でも、あなたは、絶対に許さないからね!」
僕は、マーサがフェイスの言いがかりを受け、同じような言いがかりで口答えするのを見ながら、初めてフェイスを見た後にマーサとした会話を思い出していた。僕が今こうしてフェイスの隣に座っているなんて、あの時には信じられなかっただろうなと思っていた。フェイスは、よく、僕をこんな気持ちにさせる。何か不思議な感覚で、しばらく、うわの空になってしまうのだ。
ようやく現実に戻った時には、二人の会話は映画の話になっていた。
「いえ、私、その映画、もう妹と一緒に見たのよ」 フェイスが喋っていた。
「どんな映画だった?」 とマーサ。
「最高だったわ。ぜひ、見なきゃダメ!」
「そうねえ、独りで見に行くことになっても、今夜、見に行こうと思うわ」
独りで映画に行く? 僕もよくそうしていた。でも、ここしばらくは、なかった。フェイスと出会ってからは一度もないのは確かだ。
僕はマーサの顔を見た。僕の知る限り、マーサはあまりデートをしていない。もっと言えば、彼女がデートの話しをするのを一度も聞いたことがなかった。
「ねえ、あなた。あなたがマーサと一緒に行ったら?」 フェイスはそう言い、その後、マーサに向かって、「彼、私がその映画をすでに見てしまったので、どうするか迷っていたのよ。彼と一緒に行って。いいでしょう?」
マーサは、僕がどんな反応をするのか知るのが嫌そうな顔で僕を見た。僕には、良いアイデアのように思えた。もっとも、それをフェイスが言い出したことに驚いてはいたが。フェイスは、独占欲が強いところがあるから。
ともかく、フェイスは喜んでいるようだし、マーサは、どう返事してよいか分からないようだったので、僕は、マーサに軽く微笑みかけ、頷いて見せた。
「私のこと本当に信じられるの?」 マーサがフェイスに言った。僕はマーサの顔にユーモアの印が浮かんでいるか、探したが、そんな表情が出てたかどうか、よく分からなかった。
フェイスは、くすくす笑い出した。「あら、私、彼のことは、充分、魅了していると思ってるわ」
そういうわけで、僕は8時半にマーサを迎えに行くことになった。