11月の中旬なので、外はそれほど暑くはないだろうと思ったけれど、今年の秋は暑さが続いていて、この日も例外ではなかった。そこで、軽くお化粧をした後、上は、クロップ・トップ(
参考)のTシャツにし、下着にはサテンのパンティを履き、その上にAラインのスカート(
参考)を履いた。
着替えの後、飲みたくて堪らなくなっていたコーヒーを求めてキッチンへ入った。コーヒーを入れたポットがないところを見ると、最初に起きてきたのは私だと分かった。私は、大きなポットを使ってコーヒーを用意した。コーヒーの香りが家全体に広まればすぐに、みんなが集まってくるだろうと分かっていたから。
最初にキッチンに来たのはマリアだった。頼まれるまでもなく、私は彼女に大きなカップでコーヒーを注いであげた。マリアのすぐ後にヘレンも来て、入れたてのコーヒーを啜り、生き返った様子だった。
最初は、誰も口を利かず、ただコーヒーを啜るだけだったけれど、何分かして、私はマリアに話しかけた。
「マリア? お父さんが何時ごろ帰って行ったか、知ってる? 最後に父に声をかけたとき、あなたとお話しをしていたようだったけど」
マリアは、テーブルを見つめたまま、急に顔を明るいピンク色に染めた。そして、ちょっと意味ありげにクスクスと笑い出した。
「本当のところ、彼はまだ帰っていないの」
それを聞いて、私は、瞬間的に、父とマリアが一緒に寝たのだと分かった。最初は、嫉妬の気持ちに胸が苦しくなったけれど、その痛みもすぐに消え、むしろ、父の幸せを喜ぶ気持ちに変わった。マリアが、愛し合う相手としてこの上なく素晴らしい人だというのは、私自身、身をもって知っているから。
「よかった。お父さんがさよならも言わずに帰ってしまったのかと思っていたのよ」 そう言って私はコーヒーをひと啜りした。
私の言葉にマリアが驚いたのかは分からない。けれど、彼女は、父と一緒に寝たことについて、私が怒っていないことをすぐに理解してくれたようだった。それから後は、私たちの会話は、誰がパーティに来て、どんなことが起きたのかという話題に変わった。
20分ほどしたら、今度は父がコーヒーを求めてキッチンにやってきた。私は、父を私とマリアの間に座らせ、コーヒーを出してあげた。父は、愛しあった相手と自分の娘の間に座らされて、ちょっと気恥ずかしい気持ちになっている様子だった。
父の緊張感を和らげようと、私は声をかけた。「お父さん? 今、プレゼントを開けてもいいかしら?」
「ああ、それがいい。ここに持ってきて、お友達に見せてあげるといいよ」
そのように言う父の声の調子から、何かものを言ったおかげで、気持ちが落ち着いたらしい様子が感じ取れた。
プレゼントの箱は、長さ45センチ、幅25センチくらいの大きさだった。ダンボールの箱ではないのが分かる。とても重い、木製の箱だと思った。
箱を前に置いて、父の隣に座った。「開けてごらん」という父の声に促されて、包み紙を縛ってあるリボンを解き、そして包み紙を開けた。そして私は、すぐに、何をプレゼントされたのかが分かった。母が持っていた古い宝石入れのボックスだった。
子供の頃、私は、そのボックスを触ってはいけないし、その中にあるものを使って遊んでもいけないと言われていた。母が、何か装飾するものが欲しいとき、そのボックスの中を探していたところを何度も見たことがあった。母が死んだ後は、この時まで、私はこのボックスのことをすっかり忘れていた。
顔を上げ、父を見た。 「これを覚えているよね?」
「ええ・・・お母さんの・・・」
父は私の肩に手を置き、優しく抱き寄せた。
「ただの、お母さんのジュエリー・ボックス、ってわけじゃないんだよ。このボックスは、5世代に渡って、代々、母から娘へと譲り渡されてきたものなんだ。お母さんが死んだ後、お父さんは、お前が結婚した時、お前の奥さんになる人に渡せるように、これを保管庫にしまっておいたんだ。お母さんはお前のことをとても愛していたから、お母さんも、お前がこれを譲り受けるのを望んでいると思うよ」
私は胸が詰まって、どう返事してよいか分からなかった。ただ、目に涙を溢れさせながら、両腕で父を抱きしめることしかできなかった。
ようやく気持ちが落ち着いた後、私はボックスの中をいろいろと調べ始めた。そしてすぐに、この目の前の宝石箱の中に、ちょっとした財産が入っていることに気がついた。古いアンティークの宝飾品で、かなり貴重なものなのではないかと思った。後に、トレーシーに促されて、保険をかけるために査定してもらったけれど、そうする前に、直感的に貴重なものだと分かるものだった。適切なコレクターにとっては、ここにあるものは100万ドルをゆうに超える額になるだろう。
父は、ボックスにあるいろいろなものについて説明をしてくれた。誰が誰に買ってあげたものか、どんなことを記念して買われたものか、など。父が母のために買ったものも紹介してもらった。