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Fashion ファッション (3) 


マーサを車に乗せて、街へ向かい、連れて劇場についたとき、困った状態になっていることに気がついた。

「どうやら、もっと早く来るべきだったようね」 

「大ヒットしてるようだね。これだと、待たないといけないようだ」

僕たちはシネコンの前を車で通り過ぎながら、様子を見ていた。歩道に行列ができていて、通りの角まで続いている。

「あのね? 私、本当にこの映画に乗り気かって感じでもないのよ」 とマーサは言った。僕が思っていたことと同じことを言っている。「確かに、今夜、ぜひ見たいと思っていたけど、行列に並んで待った後でも、劇場は混んでると思うわ。たとえ、中に入っても・・・」

「僕も同じことを考えていたところだよ。他にも見る機会はあると思うんだ」と提案してみた。

結局、その提案に従って、車を戻し始めた。そして、どこか帰る途中で、何か飲み物でも飲もうということになった。

「がっかりした?」 と僕は訊いてみた。

「私、デートを経験しそこなったわ」

「いや、今日のことは、なしで済ませても構わないんじゃ?」

「そこが間違ってるところなのよ」

おっと! 僕は危険な領域に足を踏み入れ始めてるようだ・・・ひょっとして、彼女は、あまりデートをしたことがなかったのかもしれない! 僕は適切な言葉を捜していた。その間、どうやら僕はマーサのことをじっと見ていたようだった。

マーサは、ちょっと背が高い。すらりとしているというわけではないが、太ってるとは言えない体形なのは確かだ。上半身は基本的に平坦で、腰から太腿にかけては、少し幅広な印象。だから、上半分の体形と下半分の体形が、マッチしていない感じだ。

あごは引っ込んだ感じで、鼻はほんの少しだけ長すぎる。髪には何かすべきじゃないかと思った。ただ肩に垂らしているだけ。カールも何もないストレートで、色もありきたりな茶色だった。

「何も返事がないわけ?」 とマーサは苦笑いした。

僕は言葉が出せず苦境に立っていた。でもマーサは、こういう点には割りと良い性格をしている。

「私にとって、初めてのデートだったの」 依然、苦笑いしながら彼女は宣言した。

「まさか!」

自分を抑える間もなく、口から出ていた。だが、考えてみれば、このような宣言に対して適切な返事など存在しないものだ。

「からかわないでくれ」 これでリカバーできただろうか?

「ねえ、フランクになってよ。私は、事実を受け止められるから。そうしなくちゃいけないから。私、デートに誘われないの」

僕たちはずいぶん前から友達だったし、マーサはいつも僕に優しくしてくれていた。心から、何か適切な言葉をかけてあげたいと思った。

「男たちは、バカばっかりなんだよ。君のことを知らないんだ」

「いい? 私は、こういう状態に慣れているの。男の人たちは、そもそも、私を誘おうという気持ちすら抱かないのよ。たとえ、私のことを知っても、そうなの」

「まあ、連中が本当の君を見ることができないなら、そういう連中なんだ。そいつらにデートに誘われなくても、あまり気に病むこともないじゃないかな」

「セックスね」

「え、何?」

「セックスをしてないのよ」

「バージンなの?」

「そうなの」

ああっ! 禁句警報発令だ! 驚きすぎているように聞こえたかもしれない。彼女を落伍者だと言ったように聞かれたかもしれない。

「自分を大事にして、だよね」

「バカな! まあ、同じ部屋にいても気にならない人から自分を守って、ってこと」

「本当に誘われたことはないの?」 言葉使いに気を使うべきなのだが、そう言っていた。

「2回ほど。最初の人は、もう何年か前に退職しちゃったけど・・・」

「でも、本気で言うんだけど、やっぱり、男たちは君のことを知らないと思うんだよ。もし、男が、僕のように君のことをよく分かったら・・・」

「そうしたら、フェイスと結婚するでしょうね」

僕はマーサを見つめていた。言葉が出なかった。彼女が言おうとしていることが、すとんと胸に落ちた気がした。そして、ふと、もしかしてマーサは僕のことに興味があったのかと思った。

マーサは陰気に笑っていた。「ごめんなさい。フェアじゃなかったわ」

「いや、多分、フェアなことだよ」

僕は身の縮む思いだった(参考)。自分でも認めざるを得ないが、マーサをデートに誘うことを一瞬でも考えたことがなかったのだ。彼女が、僕の知ってる女性の中で、一番、楽しくて、性格の良い女性だと知ってるのに、そうだったのだ。

しばらく沈黙が続いた後、マーサが言った。「もう、この話はやめましょう。私、もう諦めて、一生、純潔な人生を送ることにしたから」


[2009/03/04] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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