「彼は、愛情について何て言ったんだい?」
翌日の午後、リディアは孫娘に訊いた。
「誰? 誰が愛情について何て言ったか?」 バーバラは混乱して、聞き返した。
「カウンセラーが、男女間の信頼と愛情は、二人がしばらく一緒に暮らした後に出てくると言ったんだろ? そして、スティーブが、お前としばらく一緒にいたら、お前を信頼できるようになるかもしれないと答えたんだよね。違うかい? それで・・・スティーブは、お前への愛情について、何て言ったんだい?」
バーバラは鼻を鳴らし、祖母を見た。
「まあ、それに近いことだったと思うけど。でも、スティーブは、それについては何も言わなかったわ。・・・彼、ヒューストンさんの話しを聞いていなかったのかもしれない」 とバーバラはためらいがちに答えた。
「おバカだねえ、ほんとに! いいかい? お前の旦那さんは、人に過小評価される方が好きなんだよ。賢いなあと思われるのは好まないタイプなのさ。だから聞いてなかったような態度をしてたんじゃないかい? でもね、スティーブは、こういうことを聞き逃すようなことは決してない。お前も分かってるんじゃないのかい?」
リディアはそう言って、爪で自分の上歯をこつこつ叩いた。
「だけど・・・」 リディアは、何か考えている様子で話しを続けた。「だけど、否定もしなかったわけだ。そうだね?・・・」
そう言って、しばらくの間、考え込む。
「・・・そう・・・バーバラ、これは良い兆候だと思うがね。お前の旦那なら、ヒューストンさんが言ったことに賛成しない場合は、お前とヒューストンさんの二人に、そう言ったはずなんだから。それも、かなり強い調子できっぱりと。私の知ってるスティーブなら、きっとそうしたはずさ」
リディアは笑顔になっていた。
「それで・・・スティーブは反論しなかったと・・・ということは・・・グラスが半分空になってしまったと言う代わりに、半分残ってると言うことにしようかね・・・」
「・・・オーケー! それじゃ、残りの半分を一杯に満たすには、どうしようかね?」
バーバラは、わけが分からないといった面持ちで聞いていた。
リディアはバーバラの頬を優しく叩いた。
「お前さんたちは、一つ、巨大なハードルは越えたんだよ。お前はスティーブとの家に戻ったんだ。それは、ヒューストンさんが言うように、とても、とても重要なことだったんだよ。そこで、これからしなきゃいけないことは、もうちょっとだけ頑張ることなのさ。そうすれば、あの男は、あっという間に、元のようにお前に惚れこむだろうさ。そこで・・・そんなふうにするためには、どんなことを準備したらいいんだろうね?」
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「もしもし?」 バーバラは携帯電話を握っていた。
「ああ、バーバラ。何だい?」 スティーブは答えた。事務所の中、椅子の背もたれに背中を預けて、虚空を見る。意に反して笑顔になっている。スティーブは、最近、毎日、1回か2回、妻からかかってくる電話を楽しみに待つようになっていた。
「ちょっと、他に予定がなかったらだけど、今夜、一緒にラモンのお店にディナーをしに行けないかなと思っていたの」 陽気そうな声だった。
スティーブはちょっと沈黙した。
「それは誘ってるのかな・・・デートに?」
「ええ、その通りよ」 バーバラは、嬉しそうな声で、素早く返事し、スティーブの反応を待った。
「ラモンは良さそうだなあ・・・僕の車で行こうか? それとも、君が車で僕を拾ってくれる?」
バーバラは、スティーブが楽しそうな声で返事したのを察知した。
「うふふ、あなたが運転して・・・私、あの店の巨大マルガリータを飲んでみる夢を持っていたから」
スティーブもバーバラにつられて笑っていた。
「楽しそうだ。じゃあ、6時に家に戻るよ。いいかな?」
「ええ。最高! 私は7時半からの予約を入れておくわね」
バーバラは、返事をしながら胸が躍るのを感じた。
「じゃあ、また後で」
「じゃあね。愛してるわ」
バーバラは、電話を切る前、ちょっとやりすぎたかしらと思った。電話の向こう、スティーブが受話器を降ろす、カチャというよそよそしい音だけが聞こえ、バーバラは、少しがっかりした。だが、勇気付けられた面もあった。スティーブは、自分が言ったような愛の呼びかけでは返事してくれなかったが、そのような呼びかけを使ったことを拒むこともしなかった。二人は近づいてきていると感じることができた。もう一度、最初から、夫を私に恋させるのだ。今夜のデートは、その道を進む第一歩になる。
今夜は、とても素敵な夜になるはず。ノニーも、そう保証してくれたのだから。
つづく