僕はマーサを見た。まだ憤慨している。自分の扱われ方に、これまでの人生、ずっと不満を持ち、内面で傷ついてきたのだ。
「フェイスが間違ってると証明することもできるよ」
僕は小さな声で言った。酔いがまわってきていたのだろう。そうとしか考えられない。
マーサは僕を見つめた。彼女の目に涙があふれてきているのに気づいた。しばらく沈黙していた後、同じように小さな声で、彼女は答えた。
「あなたが、この話しを冗談にしてしまうとは思わなかったわ」
「冗談なんかじゃない!」
「私のこと我慢できるの? フェイスに隠れて浮気できるの?」
「さっき言ったように、男たちは君のことを知る必要があるんだ。それに君が指摘したように、フェイスは確かに君に対して無礼な態度をしていた」
「あなたに分かってもらえたらいいのに・・・あなたが私の奥底の本能をどんなに強く誘惑しているかを・・・」 マーサはちょっとぐらついているように見えた。
「本気だよ」 僕が心から本気になっていることを彼女に分かってもらおうとした。
「こういうのって、何て言うのかしら? ・・・お情けのエッチ?」
僕はぐっと怒りをこらえた。「なんて言葉を!」 マーサはちょっとにやりと笑った。
「いいかい? 僕たちは、僕がフェイスと会う前からずっと友達だったんだ。それに僕たちお互いのためなら何かできるはずだ。君は、その年配の人よりは僕の方が魅力的に思っているんだろう?」
「あなたは私のこと魅力的だと思ってるの?」
「ああ!」 本当にそうなのか? と自分を疑っていたが。
マーサは、何か考えているようだった。
「もうやめて」
小さな声だが、きっぱりと彼女は言った。マーサは僕の言ったことを信じていない。
「じゃあ、僕に証明させてくれよ」
マーサのアパートへ車を走らせながら、ちらりと彼女の方を見た。結局、僕はマーサを説得したのだった。自分でも信じられない。そして、僕自身、内心、これを待ち望んでいることにも気がついた。本当に、心から待ち望んでいる。もっと言えば、僕はすでに興奮していた。
マーサは何を思っているのだろう? ちらりと彼女の顔を見た・・・ちょっと微笑んでいるような気がした。満足感からの笑みなのだろう。そう思いたかった。僕も、これがマーサにとって良い結果になって欲しいと思っていた。